その事件の犯人はバーテンダーの女だった。
そのことは明白だった。だが、証拠が一つも出て来なかった。
一人で5人殺した容疑がかかっているというのに

「でもこんなに素敵な探偵さんと出会えたから運がいいわ」
「・・・・」
「ねぇ。私がどうやったか知りたくなぁい?」
「それは自白か」
「自白じゃないわ。何を、って言ってないもの。」
「・・・・・」
「一杯だけおごらして頂戴。今日は早めに店仕舞するから」

青色に光るカクテルを進められる。
僕は手をつけずに彼女の顔を見たが、彼女は小さく笑って飲んで、と言うだけだった。
別に事件は解決した、だから僕の仕事はここまでだ。
証拠だの何だのは警察に任せればいい。
それなのに、そのカクテルに手をつけたのは、彼女が に似ていたからだろうか。
ブルネット、青い瞳。白い肌。
それしか合ってない。でも薄暗い店内では に見える。
最近は朝早くに出て行って夜遅くに帰ってくるために顔を見ていないからだろうか。
僕がこんな風に一人の人間と会えないからといってそのことを思うとは思っていなかった。

「ねぇ探偵さん」
「あなたとっても」

カクテルを一気に飲んでグラスを空ける
ついてきてといいながら彼女は店の奥へといった。

「かわいい、わ。食べちゃいたいくらい」

ぐい、と暗闇に引き込まれて両足に力を入れようとしたが動かなかった。
その瞬間に何か盛られたと分かったがもう遅い。

「な、にを、」
「探偵さん大事な人がいるのかしら?」
「・・やめろ」
「いる、のね。でも今日だけは忘れていいわ」
「触るなっ」

暗闇の中で青い瞳と赤い唇が僕に近づいてくる。
白い指先、全部 の、こんなにも似ていないのに。

「いただきます」

くちびるが、やめろ
背中をぞくりと何かが走り抜けた。
ついばむだけのキスだったというのに
足の力が入らない。それよりも問題なのは
マインドパレスが音を鳴らして停止していく。
同時に体に起こる異変。
僕が最も嫌う生理現象。

「その気になってくれたみたいね。ふふ、かわい」

僕のスラックスを撫でる手。
あつい、いきが、どうきが、体の中心が熱を持つ。

・・っ」
?ああ、彼女の名前?大丈夫、夢中にしてあげるから」

足に力が入らない。
ずるずると壁伝いに座り込んでしまった。
白くて熱い手がシャツの上を這うように動く。
やめてくれ

「・・・シャーロックっ!!!!!!!」
「・・・・・あら、助けに来たのはナイトのほうね」
「ジョン・・・・」

ジョンが銃口を彼女に向ける。
後ろからレストレードも慌てて銃を向けた。

「怖い顔しないでちょうだい」
「シャーロックから離れろ!!」
「はいはい。分かったわ。で、なぁに?証拠は見つかったの?」
「この女の、信者を、探せ、くすり、くすりとしょうこを持っているはずだ・・」
「大丈夫かシャーロック」
「大丈夫だ、」

ジョンの顔を見て少し落ちついた。
そのまま感情的な生理現象を落ちつけようと何度か深呼吸をくりかえす。
マインドパレスを動かせ、考えろ、思考を停止させるな。
停止させてしまえば、もう薬に呑まれるのは明確だった。