ああ、しまった、と理性が警鐘を鳴らした。
と出会う前はこんな感覚、ほとんどなかったのに。
共同スペースから、彼女の声が聞こえて体が震えた。
ああ、やめろ、やめろ!
恐らく彼女の姿が視界に入れば、止まらないだろう。
どす黒く、腹の底で渦巻くこの感覚。
は、は、は、と息が短く切れる。

「シャーリー?」

彼女が部屋のドアを開けた。カーテンを閉め切った私室に、光と彼女の声、香り、

「入ってくるな!」

低く怒鳴れば彼女は顔だけ覗きこませて心配そうだ。
放っておいてくれ、と付け足すといくらか考えた後、部屋を出て行った。
いつもなら、それこそ、彼女の首に噛みついたりして解消してきたこの感覚。
それが、日に日に大きくなる。もっと、もっと欲しい。
シーツにくるまって、周期的にやってくるこの本能的な衝動をやり過ごすために、
僕は今日一日、部屋から出ないことを決めた。



決めたと言うのに、彼女は僕の領域へずかずかと入ってくる。
を傷つけないために、こうしているのに。

「シャーリー・・・・・」

怒鳴ったのが怖かったのか、少し遠慮がちに、部屋の扉を押した。
カーテンの隙間から見えた空は、もう暗くなっていた。
丸一日眠っていたようだ。
治まったと思っていた衝動が、彼女の声を聞いたことによって、再びふつふつとわきだした。
そっと、部屋の中に入ってくる。
髪が少し濡れている。風呂に入ったようだ。腹の底がうずく。

「ね、大丈夫?ジョンはほっとけって言ってたけど・・・・ねぇ。」

こっちへ来るな、
ああ、でももう少し、もう少しで手を伸ばせば
理性と本能が分かりやすく対立した。

「・・・・・・・・・ジョンは」
「今日は夜勤だって、そんなのどうでもいいの、ねぇ。体調悪いの?」

彼女はゆっくり、ゆっくり、暗い部屋の中を、歩いてくる。
ごっ、風が吹いて、ドアが閉まった。
バタン!と派手な音を立てて、の退路を防ぐ。

「っ!!え!?」

彼女は驚いたように振り向いた。
僕は、最早自分の力さえコントロールできていないようだ。
濡れた髪、白い肌、シャンプー香り、
気がついたときには、彼女を捕まえて、ベッドの中へ強引に引きずり込んでいた。

「しゃっ・・シャーリー・・・・」

彼女は僕の瞳を見て、分かりやすく脅えた。
僕は、それに気付かないふりをして、彼女の肌を指さきで追う

「シャーリーっ・・やめてよ・・・なんか、なんか様子が変だよ!」

暗闇の中で、見えた自分の爪は、見て明らかなくらいずいぶんと伸びていた。
どうせ、瞳も金色になっているんだろう。自分の力をコントロールできていない証拠だ。

「黙ってろ・・・・・、痛いのは、嫌いだろ?
僕も、君が傷つくことろなんか、見たくないんだ」

彼女の首筋に舌を這わす。
は、体を硬く強張らせる。鼻孔をくすぐる彼女の香りに惑わされて、
そこにはもう理性なんてものは存在していない。