とうめいの、がらすけーすのむこうがわに
シャーロックが立ってる、いきてる、しゃーろっく
わたしは、いろんなところからちがでて
このあいだ、なぐられたときに、まぶたを切ってしまって
みぎめはほうたいがぐるぐるにまかれていたから
みぎがわの視界はさいあく。
でもね、ちゃんと見えてるよ。
わたしの、いとしいひと。

「・・・・・・・!」

ばんばんとがらすけーすを叩くシャーロック
後ろで、すぐ後ろで足音。
モラン大佐が銃を構える。
耳元で優しい声

、お別れを言いなさい。僕は、優しい男だからね。君の願いは叶った。」

そう。私の願いは、もう一度シャーロックを見ること。
だめね、見てしまうと触れたくなるけれど
でもね、モランが私を殺さなかったのは
足を折っても、どんなに殴っても殺さなかったのは
私を、彼の前で、殺すために。
彼を、もう一度、絶望の淵へ。

ガラスケースに触れると、冷たい感覚が指先から拡がる。

「しゃーろっく」

シャーロックは私に指先を合わせるようにガラスをなぞった。
彼の口は逃げろ、逃げろと叫んでいるようだ。
けれど、逃げられないの。もう、動けないのよ。
多くの感覚が遠くへいってしまったの。
もう、見えてるものを見て
聞こえてるものを聞いてるだけのお人形さんなのよ

「しゃーろっく、」

と幽かに厚いガラスを通して声が聞こえる。

「だいすき」

ぱぁん、と甲高い音が鳴った。

+++++

ぱち、と目を覚ますと、白い天井が広がっていた。
ピッ、ピッ、ピッ、と電子音が近くでなっている。
やっぱり右側は包帯が巻かれているらしくて、見えない。
真っ暗だ。どうやら夜みたい。
お腹に力を入れようとしたけれど、力は入らず、
くずれ落ちて、またベットの上へ。
よかった、生きてる。

「シャーロック・・・・」

暗闇の中に私の声が小さく広がったけれど、答える声は無く。
ただ、ただ

「シャーロック。」

強い力が起きあがりかけた体を抱きしめた。
暗い中で、それが誰かも分からなかったけれど
それでも、これは

「シャーロック、わたし、一生、許さないから」

傷口をかばうこともなく、力を緩めることもなく
小刻みに小さく震える体に、全身を預ける。
顔が見たい、もっと、もっと、触れたい。

「シャーロック、」
「・・・・・・・・・・・・・っ」
「泣いてるの?」
「・・・・・・・・・・・・ないてない」
「シャーロック、大好き」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕も」
「よかった。シャーロック」

背中から抱きしめられてるから、顔が見えない。
黒くて背の高い男の子。
ゆっくり、ゆっくり体を回して、シャーロックの顔を近くで見たくて
触れたくて、そっと触れる

「・・シャーロックだ。」
「・・・そうだ。」
「シャーロックだ・・・」
「ああ。」
「シャーロック、シャーロック」

きゅぅ、と抱きしめて顔を寄せる。
夢なら、覚めないように。
夢でも、この感覚を忘れないように

「・・・・・・・・ぼくは」
「・・うん?」
「もう、絶対に、いなくなったりしない。約束する。絶対に。
君を欺いたり、どんな理由があったとしても。それが君やジョンを巻き込む結果となっても
君たちを欺いて守ろうとなんかしない。だから。だからっ」
「・・・シャーロック、やっぱり泣いてるのね。」
「・・だからっ・・もうこんな気持ちにさせないでくれっ・・・!」

月夜を含んで青色に光る瞳から
大粒の涙が、ぱたり、ぱたりと落ちて行く。
なんて綺麗な涙なのかしら。
落ちて行く涙を指ですくって、指をつたって

「シャーロック、ちょっと疲れちゃった。」
「・・・・・・・うん。」
「朝まで、ここにいてね。」
「・・・・・・ずっといる。」
「泣いてたこと、ジョンには秘密にしておいてあげるわ。」
「・・・・・・うん。」

私の世界が終わった日の夜、私は私を残して朝日を迎える毎日に取り残された
そして、また今日、私の世界が始まった。
青い瞳の少年がこんなにも泣くんだから
私は、またもう一度立ち上がる必要がある