たとえば事件現場。
僕らの周りには20人以上の人間が現場を荒らしまわる。
僕は荒らしまわる前にできるだけここへ来たい。
僕の観察が終わり、ジョンが検死をする。
レストレードが後ろで何か喋ってる。
うるさい。
アンダーソンこっちを向くな。
うるさい。
揺れる髪、服の皺、後ろから香るコロン
足音、靴の底が減っている
声、昨日は飲みすぎた
目じりの皺、家庭環境が悪化しつつある
うるさい、うるさい、僕の思考を止める原因がゴロゴロと浮いて見える
「おい、シャーロック!ここでマインドパレスに引きこもらないでくれ!!」
ジョンが僕の体をゆすった
「・・・・・・・・・・・・・・まだ引きこもってない。ここは煩い!僕は失礼する!!」
「お、おい!事件は?」
「また連絡する!じゃあ無能な警察諸君、君たちの仕事をやってくれて構わない!」
221Bに戻ってコートを脱いでソファに腰掛ける。
ジョンが何か言った。僕は答えなった。
『おい、もうマインドパレスかよ』
みたいな事を呟いて、小さな机にコーヒーを置いた。
ところまでは僕の視界に入っていた。
あとは、ずっとマインドパレスの中で推理。
ここは誰も邪魔しない。
ここは僕の思考を止める原因何かない。
何時間たっても、誰がしゃべりかけても、僕は外界とは別の場所を漂う。
誰も邪魔してくれるな、と。
「シャーロック」
誰かの声が響いた。僕の宮殿なのに。
「シャーロック」
聞きなれた声だ。誰の声だ。
「シャーロック、少しは帰ってきてちょうだい。レストレードから着信が」
誰の声だったか。思いだしそうだ。
忘れちゃいけない声だ。
しまってはいけない記憶だ。
僕の周りには事件と事件にまつわる証拠と文献が散らばっていて
なにがなんだかわからない
「シャーロック?このコーヒーは何時間前に入れてもらったの?」
誰だった、誰だった。
だいじなことだ
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・おかえり。」
戻ってくると、暖炉に火が入って間もないようで冷えていた。
部屋は真っ暗。暖炉の火だけが唯一の光源。
が、仕事の鞄をジョンの椅子の上に置いた。
「シャーロック?そんなに難事件なの?ジョンが昼から戻ってないってぼやいてたわ。」
「いつ、帰った。」
「さっき。ついさっきよ。ジョンから夕食がないから外で食べてきてくれよって電話くれたの」
「そうか。」
は、スーツのジャケットを脱いで僕の膝へと登ってきて座った。
目の前に椅子があるのに、意味がわからない。
首に回された腕は、手の先は、あまりにも冷たかった。
「難事件でもない。」
「そうなの」
「でも周りが煩いんだ。」
「そう。」
「君だって、三日はろくに眠ってない。」
「そうね。」
「シャツはあらかじめ仕事現場に置いてある替えのものだ。三日前に出て行った時は淡いピンクだった」
「良く覚えてるね。」
「そんなことが、沢山、知りたくもないのに、僕の頭の中に飛び込んでくるんだ」
「そっか」
彼女はゆっくり僕の頭を撫でる。
「シャーロック、私は、すっごく疲れて帰って来たのよ。」
「ああ。」
「できたら三日ぶりにベッドで寝たいの」
「ああ。」
「一人じゃ寂しいわ。」
「・・・・・・・・・・まだ真相が」
「じゃあ、代わりにキスして頂戴。」
ゆる、と頭に手を添える。
この行為を彼女とし始めてから
やっぱりこれも思考を止める原因になる。
できたら今の状況だとやるのはあまり賢くない。
が、何故か止められない。
人間の欲は、知ってしまうと深みにはまる。
薄ピンクの唇に噛みついた。
離れるまでの数十秒間、は僕の頭を撫で続けた。
「じゃあ、私は一人寂しくベッドへ行くわ。」
「・・・・・・・・・・」
携帯が鳴った。
彼女はいつもより反応が遅く、ゆっくりと振り向く。
なったのは僕の携帯だった
が携帯をとって、僕に手渡してくれる。
「レストレード警部よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女は僕の寝室の扉を押していた。
一刻も早く横になりたいって顔だ。
「10分で終わる。ちょっと待っててくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それでも早くしてね、眠くて仕方ないの」
「わかった。」
僕の思考を止めるもの。
人が気付こうとしない小さなヒント。
ジョンの怒る声。
そしてという存在。
最後の一つは遮断できない、やっかいな存在