服と服がすれ合う音で目が覚める。
というより、起きよう、起きようと頑張って瞼を開けようとする。
朝は、本当に苦手。それでも。今日も彼とひと勝負するために
無理やり体を起して、ローブを羽織る。
長い階段を転げ落ちないようにゆらゆらと足元に気をつけて降りた先には

「まい、くろふと・・・・」
「寝てて構わないよ。」
「きょうは、早いのね・・・」
「そうだったかな。いつも通りだと思うが」
「そんなこと、ないわ・・・・」

舌はちゃんと回らないし。足も、ちゃんと動いてくれない。
上質な生地同士がぶつかる音が心地よくて、立ったまま眠ってしまいそうだ。

「まいくろふと」

ずる、と重い体を引きずって近寄ると彼は優しくこめかみにキスしてくれた。
自分でも間抜けな顔をしていると思うんだけど、でも表情が緩んでしまう。

「昨日も、待っててくれたから遅かっただろう。寝てなさい。」
「・・・・ひとりはいや」

毎朝、毎朝、この勝負にかけている。
昼間は一人でこの大きな屋敷に残される。
だから、私は賭けをする。他に、面白いことなんか何もない。
コロンの香りが、鼻孔をくすぐる。彼の香り

?」
「ひとりは、いやよ。ひとりでべっどに戻るなんて、絶対」

彼の襟を直して、ネクタイを代わりに結ぶ。
頭ははっきりしてるのに、舌は相変わらず思ったように動いてくれない
彼のお気に入りの書斎。静かで整頓されていてちょっとつまらない

「困ったな、私は何をしたらいい?」
「このまま。いかないで、私と楽しいことしましょうよ」
「っ!」

ネクタイを思いっきり引っ張って背中からソファに倒れこむ。
背の高い彼は慌ててソファの背もたれに手をついた。
面白くない。面白くない!

・・・・・っ!」

少し髪が乱れてしまったわね。
色の薄い唇に噛みついた。
最初は私から、それに彼が答えて、首に腕を回す。

「んっ・・・・・」

ちゅ、と軽いリップ音。
近くで見るとシャーロックとよく似た瞳。

「心揺らぐお誘いだな」
「じゃあ、いいでしょ、ね、お願い」
「・・・・・・、あまり私を困らせないでくれ」
「いやよ、だって貴方を困らせるのは私とシャーロックだけでしょう?」
「・・・」
「お願い。貴方を送りだして、貴方が帰ってくるまで、一人で、何もすることないの。
大きな屋敷で、つまらないの。」

「マイクロフト、お願い。」

彼が眉根を寄せて、何か言いかけて、
彼の胸のポケットから、着信音
いつか、彼の携帯、絶対に、ワインに沈めてやるんだから
マイクロフトは無言で、私にもう一度キスして、シャツの皺を伸ばしながら、ジャケットを持って出て行った。
賭けは、今日も負け。明日の朝の作戦を練らなくちゃ。駄目ね、次はベッドの中で・・・・・起きれるかしら。
体は眠くて眠くて、仕方ないから、ソファでこのまま眠ってしまおうかしら

、行ってくる」
「はぁい」
、昼食は一緒に取ろう」
「・・・・ほんと?」

自分でも現金だと思うけど、ソファから飛びあがった。

「本当だ。必ず。」
「絶対?別の誰かと一緒になったりしない?」
「そもそも私は昼食まで仕事で潰したくない。どうせなら、君と。」
「・・めいいっぱいおしゃれする!」
「楽しみにしてるよ」

なんだかいいように丸めこまれたような気がするけど、まぁいいわ!
いつか、絶対、仕事さぼらしてやるんだから!
それから、昼食は必ず、外で一緒に食べるって言うルールが
私たち夫婦の中に出来た。だって新婚旅行にさえ行ってないんだもの。
わがまま言って何が悪いの!