シャーロックが走ってきた。

事件現場で。
ヘイミッシュは起きて来なかったから、ハドソンさんに任せて
仕事も、今はお休み中で。ジョンも仕事で。
デートと言いながら殺人事件の現場へやってきた。
ヨットハーバーで起きた殺人事件。
漂う船を眺めながらなんとなくぼんやりしてた。
シャーロックは後ろで、遠くで、何か喋ってるのを聞きながら
風が気持ちいい。今度、三人で海へ出かけよう。夏になったら。
夏になったらきっとヘイミッシュの身長はもっと大きくなってるはず。
シャーロックの子供だからそのうち私の身長を越しちゃうんだろうなって。
そんなことを考えてたら

「!」

シャーロックが走ってきた。
ぎゅうと抱きしめられた。
思わず顔を上げたけれど彼の癖っ毛が彼の瞳を隠してしまって、よく見えなかった。

「シャーロック?」

さっきまで推理してたのに、どうしたの?
後ろで一度だけシャーロックを呼ぶレストレードの声が聞こえたけれどシャーロックは答えなかった。

「シャーロック、事件は解決した?」

彼は答えない

「解決したら、朝ご飯食べに行こう。」

彼は答えない

「それからお留守番のヘイミッシュのためにケーキをかって」

コートがはためく。
まだまだ春はやって来ない。まだまだ寒い。

「帰ったらお昼ごろかな。お昼は何にしようか」

ぎゅうともう一度抱きしめる腕に力が入った

「シャーロック、私ね」
「すごく」
「いますごく、」
「キスされたい」

がぶり。



春はまだ、やって来ない