壁に4台のデスクトップ。
さらに机の上に3台と、キーボードが4つ。
マウスは邪魔になるから置いていません。
次から次へと画面がそれぞれぱちぱち動く。
流石に目が悪くなるかなぁなんて思っていますが、
未だに、視力で困ったことはないので、放っておきます。
でも暗いところで画面を見たりするのは駄目でしょうね。
しかし猫の動画とか見始めると止まらなかったりします・・。
左上の画面が小さな音を立てて何か掲示板のようなものを映し出しました。
ころころ、と椅子を動かして画面を見てみると、
よく、チャットなどで使われる簡単な掲示板が起動しています。

私の仕事は情報を集めること、情報を盗むこと、情報を提供すること。
コンピューターウイルスを作ること。ウイスルに犯されたパソコンを遠隔操作で直すこと。
などなど。ただの情報屋、とは意味が違います。ハッカーもクラッカーもする。
ギーク、なんて安い名前で呼ばれるのはごめんです。

掲示板には一見、不自然な様子はありません。ただ、この自作のコンピューターが反応したということは
何らかの違法な方法でソースがいじられたと言うこと。
情報屋に依頼をしてくる人は通常の方法では連絡を取りません仲介者を通すことがほとんど。
掲示板を開けると

【赤い猫を捕まえたいんだけど、どこで会えるのかな? JM】

赤い猫、というのは私の事。猫は私が音も立てずに情報を盗むから。
赤は誰が言い出したのかよくわからないけど、女、という噂が何処からともなくたったから。
間違ってても訂正しないし、合っていても訂正する必要もありません。
誰が言い出したのか、いつの間にかそう呼ばれるようになっていました。

JMの文字。
・違法にメッセージを送って来れる犯罪者
・発信元はイギリス国内→イギリス国内在住、もしくは滞在
・パソコンの使える環境にいる(つまり牢屋の中じゃない)
5人いるうちの2人は牢屋の中。もう一人は行方不明。
残りは2人。

さて。どっちからメールが来たのか。そこから始めてみましょう。
と私はメインデスクの前で、甘い香りのソーダを一口含み、
キーボードをテンポ良く叩き始めた。



まさかジェームズ・モリアーティから声がかかるとは思ってなかった・・・・
犯罪王と呼んでも過言じゃない。
敵に回したくない。絶対に。
味方になってほしくない。絶対に。
全く関わりを持ちたくない。
彼のやってることは犯罪のコンサルティング。
彼がある犯罪で依頼した先のさらに先で2度ほど仕事を手伝ったことがある。
今や、完全犯罪を行う上で、彼が関係していないものなんてないんじゃないでしょうか。
あこがれてる奴もいれば、侮蔑する奴もいて、敬愛してるやつもいれば、幻滅した奴もいる。
ただ、一定して全員に言えることは、関わったら最後。
何らかの形で相手の心に住みつく。
それが愛だろうが、悪だろうが関係ない。
消えてくれない存在になる。
できるだけ、本当にできるだけ彼と彼の組織には手を出さずに来たっていうのに。
やっぱり、彼の手から逃げきるのは不可能のようです。
このメッセージを無視しても、私の身が危険。
彼には敵も多いが信者も多い。

でも、できるだけ機嫌を損ねない方法で。
私は止まった指をもう一度、動かしはじめた。