「貴方は、まだ嘘をつき続けるんですか。」
「・・・・・・・・。」

背後に立っている彼に向って声をかける。
ジョンは気付いていなかったけれど。

「隣に座っても?」
「どうぞ。」

上質のブランド物のスーツ。
彼とシャーロックは仲良くなかったし、趣味も考え方もまるで違ったけれど
服のセンスと好きなブランドは一緒だった。

、君が私を憎んでいることはよくわかる。」
「憎んでいません。貴方を憎んで何ができるんですか。私は、貴方に対して怒っているんです。」
「・・・・・。」
「だって、貴方、私に何か言ってないことがあるでしょう?ねぇマイクロフト。」

その顔。表情に乱れなんか起こりにくい彼に現れる。
不安、の表情。

「私が、何を知っていると。」
「貴方は、シャーロックと何か約束をしたでしょう?」
「したとしても、君には言えない。」
「言わなくていいですよ。ただ、ひとつ、」
「なんだね。」
「シャーロック・ホームズは生きてるんですね。あなたはそれを知っている。協力者は、モリ―・フーパー」
「・・・・・・・どういうことだ。」

空になったカップをぐしゃりと握りしめた。
貴方の表情がそう語っているんです。

「・・・・・・いいえ、いいえ。なんでもありません。心が壊れた女の戯言です。聞き流してください。」

手先が冷える。涙が溢れそう。もう、涙が枯れたっていうくらい泣いたのに。

「幼少期にDVを受けた子供は、大人が自分を殴る直前の表情を見極めて、自分の体を守る体制をいち早く取ります。」
「・・・・・・・・・ 。」
「だから、私は、人の表情から感情を読み取ることができます。」
「・・・・・・・・ 、やめなさい」
「シャーロックが死んでから一年目、皆で集まりましたね。貴方も来ました。」
「・・・。」
「グレッグもモリ―もジョンもハドソンさんも、アンジェロも、アンダーソンとドノヴァンも。」
「グレッグとジョンとハドソンさんとアンジェロは絶望と悲しみ、
アンダーソンとドノヴァンは不安と後悔
でもね。モリ―は違ったんですよ、モリ―は不安、悲しみ、絶望のほかに恥。
そして問題の貴方は、マイクロフト・ホームズは安堵の表情が見られました。」
。」
「自分の弟が死んで1年目で貴方は『全員の記憶の中のシャーロックが死んでいる事実』に対して
安堵の表情を浮かべたんです。家族を殺した犯人でも安堵の表情は浮かべません。」
!」

ぐちゃ

「帰ります」
、少し休んだ方がいい。」
「ええ。ジョンにもさっき言われました。」

私は立ち上がる。家へ帰ろう。
がしゃん、

「あ、22人目。」
「なにかね。」
「今日だけで、今ので22人のシャーロックが空から降ってきました。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・急いでカウンセリングの予約入れなくちゃ駄目ですね。今まで15人を超えなかったのに。」
「送るよ。」
「いいえ。一人で歩いて帰ります。」

くるり、と振り返って歩きだす。
公園を出る前にちらりと振り返ると
マイクロフト・ホームズはどこかに電話をかけていた。
それはどうやらとても大事で重要なものみたいだ。

明日、セバスチャンに告白を受けることを言わなくちゃ。
私も、ちゃんと前を見て歩かないと駄目ね。
死体をよけて歩くわけにも、そろそろ行かないし。
電話が鳴った。携帯の表示はセバスチャン・モラン。

『やぁ、 。今、なにしてるんだい?』
「ああ。セバスチャンどうしたの?」
『いや、えっと・・・今日のことで悪いんだけどさ・・・、あの食事とかどうかなって。』
「・・・・・勿論よ、私も電話、しようと思ってたから。」
『ほんとに!?・・・あ、いや。えーと、』
「セバスチャン、デートしましょ。」
『・・・・す、すぐ迎えに行くよ!何処にいるの?』
「えっと、」

待ち合わせの場所を伝えて、私はそこへ向かって歩き出す。
公園を出る前に振り返ったら、まだそこには身長の高い男が傘を持ってこちらを眺めていた。
誰も教えてくれないから、私が捜すしかないの。
誰も教えてくれないけれど、彼はきっと何か知っているの。
だって、彼はあの犯罪王の信者なんだから。
犯罪王が死んでもなお、その命令を実行する騎士だから
だって、彼は私がシャーロックの恋人っていて知って近づいてきてるんだもの。
何も言わないで、シャーロック。だって、誰も助けてくれないの。
貴方が飛んできて助けてくれたらいいのに。子供みたいなわがままだけどね。

その日はそのあと、シャーロックの死体が落ちてくることはなかった。