キッチンで、パスタを湯がいていたら
がしゃん!と大きな音がして
振り返ると、3年前に自殺した彼氏が
頭から血を流して倒れていた。
瞳は瞳孔が開いていて
鮮血が、道を作って走っていく。
生きてる時はグリーンにもブルーにも光る宝石みたいな瞳だったのにね。
朝、起きてから5人目。
シャーロック、ご飯食べてるの?
仕事場について、
同僚としゃべっていたら
ぐちゃ、と音がして
足元を見ると
愛しい彼氏が倒れていた。
仕事場に着いてから14人目。
シャーロック、彼、私の事が好きみたいなの。
仕事が終わって、涼しくなったロンドンの町を
いつもより遠回りして帰る。
ぐしゃ、と音がして
見なれた彼が倒れていた。
「シャーロック、貴方今日はよく落ちてくるのね。」
「・・・・
?」
公園のベンチに座って、瞳孔が開いて、血まみれの彼に話しかけたら。
後ろから懐かしい声。
「ジョン?」
「・・・・久しぶり。隣、座ってもいいかな?」
「ええ。勿論よ、」
ロンドンはゆっくりと夜へ傾いていく。
ジョンは隣に座って、温かいコーヒーを啜った。
勿論、彼が死んでからも何度もあって、
痛みを分かち合い、悲しみを背負いあい、
私は彼の小さな幸せを喜び、
彼は私の勇気ある行動を称賛するような。
いつも通りの友人関係を続けていた。
「カウンセリングは?」
「行ってる。ジョンは?」
「僕も行ってるよ。また足が動かなくなったもんだからね。」
「PTSDは再発しやすいって聞くしね。」
どす、
「・・・さっき、誰に話しかけてたの?」
「・・・・シャーロック。」
「・・・・・・・じゃあ、まだ・・・。」
ぐしゃり
「私は落ちる瞬間を見ていないのに、相変わらず、シャーロックは上から落ちてくるのよね。」
「死んだ瞬間を見てないから、落ちてくるのかも」
「お医者様の言うことは難解だわ。」
どん
「そうかな、また、飲もうよ、墓参りの帰りとか。」
「ええ。勿論。」
「顔色が悪い。早く帰らないと。」
「そうね・・・・そうね。」
ジョンは小さくため息をついて。
私たちは空虚な感情を押し籠めて。
でも彼は、立ち上がった。
動かない足を動かして、彼の後もきちんと。
私は、いつまでここで立ち止っているのかしら。
「同僚に、」
「え?」
「同僚に告白されたの。」
「・・・・そ、う、か。よかったね。」
「どうしたらいいと、思う?」
「それは
が決めることだから。僕にはどうとも言えないよ。」
「そうね。でも。ジョン。」
ジョンは立ち上がった。私を一人にした方がいいと思ったみたい。
いつだって、優しくて、気がきく。
「シャーロックは生きてるの。」
「・・・・・・・・・・・・・・
。」
やめて、そのたしなめるような声。
ぐちゃり。酷い音。
「マイクロフトと、モリ―が嘘をついてるの。」
「・・・・・どういうことだ?」
「分からないの。でもね。彼らは嘘をついているのよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず、僕はもう行くよ。」
「・・・・そうよね。精神を患ってる人のうわごとよね。」
「いいや、君の観察眼は鋭いし僕は君の言うことを信じるよ。でも、僕は今、何をすべきなのか分からないんだ。」
「・・・・・ジョン、諦めてはいけないわ。マイクロフトとモリ―は、何か知ってるの。」
「だとしても、教えてくれないだろうね・・・・・」
「・・・ジョン、また会いましょうね。」
「ああ。勿論だ」
「デート楽しんで。」
「・・・・・なんで、わか・・・いいや、聞くのはやめとく。じゃあ、また」
「ええ。」
「早く帰った方がいい、本当に、顔色悪い。」
「お医者様の言うことは聞くわ。もう少ししたら帰る。」
彼は杖をついて、手を振った。
彼の笑顔は素敵。女の子が心揺れるのがよくわかる。
がしゃ、酷い、音。
20人目のシャーロック。
せめて立って喋ってくれたら、自分が狂ってるって、もっとよく理解できるのに。