「なんでスリザリン寮ってこんな寒いの」

僕のベッドの上に広がった本の間にが埋まっている。
どうやっているのか分からないがは消灯後、時々グリフィンドールからこの部屋までやってくる。
女子寮だけに伝わる秘密の抜け道があるとかないとか。
この城に秘密の抜け道なんて百とあるだろう
は足をパタパタさせながらベッドの上で転がっている

「城の地下に位置しているからな」
「天井低いし」
「文句を言うなら出て行け」
「だってシャーロックはグリフィンドールの女子寮来てくれないじゃない」
「何処から入るのかどうやって入るのか知らない」
「知ってたら来てくれるの?」
「・・・・・・・・別に寮以外でも」
「問題はないけどさ」

そもそも自分の所属している寮以外の入り口も入り方も知らないはずだ。
スリザリンは石の扉から入る。
は正面から入っていないだろう。
本当に何処から来たのか。いつも気がつけば部屋にいる。

「同室の子、決まらないね」
「僕は構わないんだがな」
「やっぱりジョンぐらいだって、シャーロックと同室になれる人」
「グリフィンドールの先輩をわざわざ連れてくるのか。」
「一人の方が楽なのね」
「他人は煩い」
「シャーロックだって煩い」
「おい」

ベッドの上で転がるせいで制服が少し乱れている。
めくり上がりかけたスカートを抑えるときょとんとした顔で僕を見上げる。
そしてにやりと笑う。嫌な笑い方だ。
白い腕が伸びてきて僕の頬に添えられた。

「でも、同室の子決まっちゃったらここに来れないわ」

腕が僕の首へと移動して弱い力で引き寄せられた。
ばさばさと音を立ててベッドの上の本が落ちる。
僕は黙っての靴を脱がしてベッドから落ちかけていた足を上へあげる。
きゃーきゃーとわざとらしい声を上げながらは笑う。

「そうだな。」
「同室の子決まったら何処で逢引しようか」
「言い方がナンセンスだ」
「だって、スリザリンの生徒と歩いてたら文句言われるもん」

それはこっちの台詞だが、僕は悪い意味でスリザリン内でもそれなりに孤立しているし
はいい意味でグリフィンドール内では変人だ。
彼女にとって寮など合ってないようなもの。
寮を越えて幅広い友人関係がある。それはスリザリンにも。
だからと言ってスリザリンの女子生徒ならまだしも男子生徒と歩いていれば
それなりにぶつぶつと言う奴が出てくる。
は女子生徒の友人はもちろん、男子生徒の友人も多い。
僕との関係が友人以上だと知られると、面倒なことが起こるのは間違いない。
あくまで僕らは友人関係なんだ。

「必要の部屋」
「必要の部屋ってベッドある部屋もあるの?」
「あるんだろうな、必要の部屋なんだから」
「でもいいね、隠れて会ったりするの、ロミオとジュリエットみたい」
「なんだそれ」

彼女のころころ変わる雰囲気に疲れて僕も隣に寝転んだ。
乗っていた本が全部床に散らばった。
ころりとは僕の方を向く。
スカートに皺が寄っている。
後で文句を言うのは

「マグルの世界の悲恋物語だって、こないだ教えてもらったの。」
「へぇ」
「どんな話か聞きたい?」
「別にいい。」

話が長い。の考えていることは分からない。
分からないし、シーツに広がった黒い髪も
崩れて垣間見える白い肌も
僕の思考を邪魔してならない。
彼女のネクタイに手を伸ばしてもは話をやめない

「憎しみ合っていた家の子どもたちが恋に落ちて、心中するみたいな」
「・・・・・何も伝わって来ないんだが」
「途中色々あるんだけど、シャーロック聞いてないもん」
「聞いてない。」
「スカートに皺入った!」
「今から脱ぐから問題ない」
「やだ、へんたい」

うるさい。と唇に触れると

「ぅん・・・」

は甘い吐息をもらしてやっと黙った。
同室の生徒も必要の部屋もいらない。
このベッドの上が、との秘密の待ち合わせ場所。

、」

名前を呼ぶと嬉しそうにすり寄る姿は猫のよう。
気ままな猫を日が昇る直前までここに閉じ込める
くだらない遊戯のようなもの