ぎこちない夕食も終わり、シャーロックはひと言ヘイミッシュと会話しなかった。
いや、多分、なんとか仲良くなろうとしていたんだろうけど
何しゃべっていいのか分かってないらしく
お風呂から上がったヘイミッシュの髪を乾かす私を
後ろから覗きこんでいたくらいだ。
ヘイミッシュは割と小さなときから、一人で眠れるように躾けていたので
とりあえず一人では寝れるはず。ジョンと一緒に二階へ上がり、ベッドに寝かせる。
私はヘイミッシュの肩まで明らかに大きなシーツを引き上げる。
シーツもベッドも、さわり心地は最高。
きっとSirがクリーニングに出しておいてくれたのだろう。
・・・語弊があるから訂正すると、出しておくように命令しておいた、ってところだろうか。
このベッドで横になっていたのは、もうずいぶんと遠い昔のように感じる。
シャーロックとの関係が始まってからここに籠るのは喧嘩したときくらいだった。

「・・・・・まま」

なにかに脅えるような、不安そうな瞳。

「なぁに」

ぽん、ぽん、とヘイミッシュを寝かしつけながら答える。

「ここに、ずっとすむの?」
「うん。そうよ」
「もう、ままがどっかにいったり、それから、けがしたり、しない?」
「絶対ないよ。」
「ほんと?」
「ほんと」

子供だから、分からないなんてことは、ない。
子供だって分かってる。自分の立場。親の立場。
母親が何故、突然いなくなったのかも、
母親が何故、大けがしたのかも
そして、大泣きしているのかも、子供は全て知っている。

「ままを、なかすのは、しゃろくでしょ?」
「うーん・・・どうかな」
「ぼく、しゃーろくきらい」
「なんで?」
「まま、いっぱいいた、くなった。しないたから。しゃろくのせい。ちがう?」
「・・・・・違わないけど、でも」

子供を置いてでも、どうしても証明したかった。
私は、この小さな心の男の子に甘えた。

「私は、それでもシャーロックが好きなの。
ママがいっぱい泣いたのも、ママがいっぱい怪我したのも
シャーロックのせいといえば、そうだけど、でもね、ママは今とっても幸せなのよ」
「・・・・・・・なんで?」
「ヘイミッシュと、シャーロックと、ママと、あとジョンと。皆でここにいるから。」
「・・・・そうなの?」
「・・・・ごめんね、難しいね。でもね、ママ、シャーロックとヘイミッシュが仲悪いの、嫌だな」
「・・・・・・・・・うん」
「ヘイミッシュ、ママとパパ、許してくれる?」
「・・・・ママ、好きだよ、大好き。しゃろくは、・・わかんない・・」
「うん。」

うと、うと。
小さな蒼い瞳は落ちてくる瞼に隠れたり、でてきたり。

「・・・今日は、寝ようね。明日から、ずっと、皆一緒だから。ゆっくり、仲良くなろうね」
「・・・・・・・うん、じょんはすき。ままも。へいみっしゅ、しゃろく好きなれるかな」
「なれるよ、きっと。ヘイミッシュは、ママの子だもの」
「・・・・・・ん・・そうかな」
「それから、シャーロックの子供だから」
「・・うん・・・うん・・・」

おやすみ。とおでこにキスして部屋を出る。
小さな頭でいっぱい考えて、
小さな心でたくさん判断して
迷って、迷って、
私は、どれだけヘイミッシュに守られるのかな。



溢れそうになった涙を救ったのは、優しくて温かくて、人の命を守る手だった。

「君の息子は一人だけど。もう一人、下でそわそわしながら待ってる大きな子がいるだろ」

笑いそうになった。その風景が目に浮かぶ

「泣いてる場合じゃないよ」
「そうね」

私は涙をぬぐってもらって、守ってもらって、立たせてもらって、
階段を、そっと降りた

「お休み。ジョン」
「お休み。シャーロックを頼むよ」
「まかせといて」

リビングには、ヘイミッシュとよく似た巻き毛の、蒼い瞳の男の子が
座っているはずだ。