それはシャーロックがセバスチャン・モランを逮捕してから3日目のこと。
はモランから受けた傷を治すのに僕の勤めていた病院で入院中だった。
そこへハドソンさんと2、3歳くらいの男の子がへの面会を申し出たのだ。
僕が「その子は?」とハドソンさんに聞くとハドソンさんはいつもみたいに
いたずらっ子のような顔で「ふふ、秘密よ」と笑ってその子を抱き上げて歩いて行く。
その男の子は黒い巻き毛でブルーの瞳。何処かの誰かを思い出させるような顔だった。
嫌な予感が脳裏をよぎって僕もかけ足で彼女を追った。
ハドソンさんはリズミカルにコンコン、との入院している個室のドアをノックした。
はーい、と奥から声が聞こえる。

「こんにちは!、調子はどう?」
「こんにちはハドソンさん。今日は調子いいみたいです」

ベッドを少し起こして座るような体制で雑誌のページをめくっていたが顔を上げた。
僕も医者として聞くべきことを聞こうと口を開いたら

「まま!!」

先にさっきの男の子が、声を上げた

「・・・ま・・・ま・・・?」
「まま!まま!」
「ヘイミッシュ、おはよう」

ハドソンさんの腕の中から精いっぱい手をの方へ伸ばす男の子。
その口からは確かに「ママ」という言葉が発せられ、そしてその先にはが横になっている。
ハドソンさんが男の子を、そうが「ヘイミッシュ」と呼んだ男の子を彼女の膝の上へ置いた

「抱きあげても大丈夫?」
「まま!」
「ええ、まぁ、ちょっと痛いですけど・・平気です。おはよ、ヘイミッシュ」
「まま、いたい?」

男の子を抱き上げ、顔をすりよせて頬にキスするの表情は、幸せそのもので
こっちまで自然と口角が上がってしまう雰囲気。
ただし、僕の予感は的中してしまったのだ
いや、こんな言い方したら、悪いことみたいだけど
これは、けして悪いことなんかじゃない

「あのー・・、もしかして・・」
「・・・・・・・・・シャーロックの、子・・です。」

僕は開いた口がふさがらなかった。
あの、シャーロックの息子だって?しかも名前はヘイミッシュ

「名前ね、つけるときに、ジョンの名前を拝借したんだけど・・よかった?」
「よ、よかったもなにも!いや、えっと、嬉しいよ!
ちょっと、あの、ごめん、びっくりしすぎて言葉が出ない。
・・・・・というかシャーロックは知ってるの?マイクロフトは?僕は知らなかった!」
「あ、それがね・・・」

< ヘイミッシュがの膝の上で僕との顔を交互に眺めて、
そのあと、ぎゅ、とにしがみついた。
とんだママっ子らしい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガラ、病室のドアを開ける音がした。
振り返らなくたって分かる。ノックも無し、断りもなし。つい最近帰ってきた、僕の同居人だ。
そして。この流れだと、この男の子の、父親。
複雑そうな声。そこにはシャーロックが立っていた。
誰が見たって、あの子はシャーロックの遺伝子を受け継いでる。
それは、本人が見ても、同じことで

「・・あ・・あの・・」
・・・その子・・は?」
「・・・あの・・・あなたの、息子・・です・・・・・」

は不安そうに眼を泳がした。
まるで、悪いことをしているかのようだ。
シャーロックは口を硬く閉じたまま、何も言わない。

「私、何か飲みモノ買ってくるわ!ヘイミッシュ、いらっしゃい」
「・・や!」

ハドソンさんが高い声でヘイミッシュを呼んだものの、
彼はに顔を押しつけて動かない

「あ、いいですよ・・」
「ほんとに?大丈夫?」
「はい・・すみません。」

ヘイミッシュの顔は見えないから、どんな顔をしているののか見当もつかないけれど
相当、機嫌は悪いらしい。ママを取られるとでも思っているのだろうか。
ぱたん、とハドソンさんが出て行って、立ちっぱなしで固まっているシャーロックと
この雰囲気に息がつまりそうになっている僕は残された。