「・・・・・・・誰だ。」

机の上を片付けて(勝手に捨てると怒るから)、灰皿の中味を捨てて、ゴミを一つにまとめて
花瓶を発掘して机の上に牡丹をさして、洗い物をしている途中で、背中にはっきりとした殺気
(職業柄、殺気を放たれることは少なくない)を感じて振り返った
顔面蒼白の男の人が一人、銃を片手に震えていた。

「・・・吃驚した。貴方がシャーロックの同居人の人ね。初めまして。」
「し、りあいか・・・ああ。ごめん。」
「いいえ。こっちも勝手に入って、勝手に掃除して、勝手に洗ってるからそうなっても仕方ないわ。
あ、コーヒー・・・買ってきたの、もうさめちゃったけれど、飲む?」
「ありがとう。えっと、」
よ。」

彼は汗をぬぐって銃を机の上に置いて、座った。
ガサガサとコーヒーのカップを取り出す。
両手で包んでみれば、やっぱり少し冷えていた。

「やっぱり冷えちゃったわ・・・キャラメル・カプチーノはお嫌い?」
「え、ああいや。好きだよ・・ああ!そうだ。マグカップに移して温めなおそうか、君の分も。」

「そうね、ありがとう。ワトソンさん。」
「・・・・名前、」
「ブログ拝見してるわ。小説みたいで面白い。」
「・・ありがとう。」

彼は照れたのを隠すようにうつむいてマグカップを口元に引き寄せた。
しばらく沈黙が続いたけれど、彼は急に立ち上がって
仕事に行ってくる、と言い残して優しく微笑んで出て行った。
こち、こちとやけに時計の音が大きく聞こえる。
ワトソンさんが出て行ってからしばらくぼんやりしていたけれど暇なので新聞を広げたら
ガタン、と大きな音がして

「しゃーr」
「君は何をしてるんだ!」
「しゃーろっく、」
「ジョンはどうした!いやハドソン夫人は!?彼女は番犬と同じだろうに!」
「シャーロック、」

彼はこの世の終わりみたいにくるくる回りながら声を荒げた。
くたびれたシャツに、うっすらと生えている髭
瞳がカーテンの隙間から入り込む光(彼が寝ていたのでカーテンは閉めて置いた)に当たって
銀色にはじける。

「君は!」
「シャーロック」

くるくる回る彼を引き寄せて
背伸びをして、薄い唇にキスをする。
彼は嫌がる子供のように身構えたが
もう遅い。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おはよう、 。」
「おはよう、シャーロック。ロンドン1の探偵さん。コーヒーはいかが?」
「・・・・・・・ああ。」

彼の機嫌は急降下。
私の機嫌は急上昇。
彼は珍しく乱暴に足音を立てて洗面台の方へと消えて行った。
ワトソンさんが用意してくれたマグカップに冷めきったコーヒーを入れて
レンジに入れる。
甘すぎる、と彼の怒る声を聞くまで
口元が緩むのを抑えられない。
カーテンを開けるとロンドンは相変わらず、灰色の町だった。