窓に近づいて鍵穴を手で確認する。
シャーロックは不思議そうな顔をしてついて来た。
「ここ、光、」
「・・・」
鍵穴に光を当ててもらって針金を通す。
がちゃ、がちゃと音がしばらくして
ガチャン
取っ手に手を伸ばしてそっと押すと
ぎぃ、と錆びた音が響いた。
「・・・すごいな。」
「おほめ頂き光栄ですわ。」
立ち上がって、鞄をかけ直す。
バルコニーから覗いてみたら、確かに降りれない高さじゃない。
ふわり、と新しい空気が肺を満たしてくれる。
「鞄、落とした方がいい。」
「え、ああ。そっか。」
壊れると困るから、携帯とipodだけジーンズのポケットに押し込んだ。
さて、どうやって降りるか、と思っている間に
彼はバルコニーの手すりに立っていた。
普通にしてたって見上げる身長差なのに。
手すりに乗られるともう、顔は暗闇にぼやけて良くわからない。
「じゃあ。また。」
「ええ。じゃあね、シャーロック・ホームズ。」
ヒラリ。と彼はバルコニーから飛び降りた。
下の方で落葉が割れる音が聞こえる。
「あ、シャーロック!」
見えないけれど、彼はその辺りに立っているはずだ。
「次に会うまで名前、覚えておいてね!」
それとも、足早に帰ってしまったのか。
暗闇の中から返事は無い。
諦めて、帰るか。と思って手すりに上った瞬間
「次に会うことがあればな。」
暗闇から返事が聞こえて、今度こそ気配は無くなった。
私はそのあと、鞄を拾って、閉められた門をくぐりぬけ(監視カメラの死角を通った)
帰路に就いた。
普通なら、送って帰るのがセオリーじゃないのかしら。
まぁ、変人に何を求めたって仕方ないか。
うーん、と背伸びをしてから自分の家を目指して歩き出した。