これから、僕の日記が始まるわけだけど。
この日記の主人公は僕じゃなくて、「シャーリー」と呼んでるある生き物だ。
だから・・・そうだな。観察日記って言うのが一番、近いかも。
その前に、まずは僕らの話からしておこうと思う。

僕はロンドンのベーカー街、221bというところに住んでいるんだけど、
しがない医者が一人で住むには広すぎる上に、家賃も高い。
といったところで、僕にはルームシェアをしている女性がいる。

僕が彼女と出会ったのは、同僚のマークの飲み友達の飲み友達といった
何とも怪しくて遠い人間関係からだった。
会ってみると、意気投合して、彼女もロンドンで仕事しているけれど
家を訳あって引っ越さなくちゃならなくて、でも家が見つからなくてなんて話をしていて
酔った勢いとさっぱりした性格(と、まぁ、外見も含めて)一緒にルームシェアをしよう!
と言ったのがきっかけだった。

勿論、お互い酔っていたし、覚えてるわけないと思っていたら
仕事の昼休みに公園のベンチに座っていると、
彼女がやってきて「まだ、ルームシェアのお相手は決まってないかしら?」と笑った。

場所は彼女が見つけてきて、大通りからは一本中へ入っているけれど、

静かでいい場所だった。家主のハドソンさんも悪い人じゃなさそうだ、ということで
僕はすぐにそこが気にいった。

となればルームシェアの話だけれど
男女が一緒に住むとなると、話はやっぱり難しくなる。
が、彼女の若干の男勝り、というか、はっきりした性格というか
が幸いして、僕らの間に妙な空気は無くなっていた。
彼女は政府関係の仕事をしているということで
家賃の滞納の危険もなくなった。

さて。僕らの関係についてはおいおいまた話すとして、
そのシャーリーと名付けた生き物に出会ったのは寒い冬。
雪が積もる中、ハイド・パークのベンチの下に、隠れるようにうずくまってるのを見つけたのが始まり。
蛇のような青い鱗と、金色の猫見たいな瞳。触った感じはほんのり温かいけれど、表面は冷たい。
トカゲとか蛇を触ったことのある人はなんとなくわかるんじゃないかな・・。
でも爬虫類にしては、翼が大きい。両手で持てるくらいのサイズ。
すっごく綺麗な生き物だけど、誰がどう見ても弱っていた。
警戒心丸出しで僕の手袋に噛みついたけれど、そんなに痛くなかった。
一瞬、同居人の顔がよぎったけれどこれだけ弱っている生き物をとやかく言う女性じゃない。
僕は巻いていたマフラーを外してその生き物を包むと、ハイド・パークから自宅へ向かって歩き出した。