ふわふわしてくらくらしてなんだか体に力が入らない。
うたたねするときの、あんなかんじ。
このまま体を欲求に任せてしまえば、
いつの間にか背中に彼の腕が回っていた。
大きく開いた肩口に、唇が寄せられる。
抵抗しなきゃ、と思う半面、このままでいいかもしれないと体は思っている

「すごく綺麗で、おいしそうだね。こういう人間は人気があるんだ。」

さっきまで聞いていた声とは思えないくらい、暗く深い声が耳元をくすぐった。
体が思うように動かない。いやだ!

「やめて・・・っ」
「あの変人にやるのはもったいない。僕と一緒になった方が幸せだよ」
「離して・・・っ・・やめてちょうだい!!!」
「Shuu、 。静かに。静かに・・・」

銀色の髪に、鋭い犬歯が光った。
そうだ、これは誰だって分かる。

!!!!!!!」

吸血鬼だ、と思った瞬間に、熱風が部屋に立ちこめた。

「ッチ・・・・」
から離れろ」
「・・・・おしかったなぁ・・・もう少しだったのに」
「この日光じゃお前は立ってるのも辛いんじゃないか?純血でもないくせに入り込んで、離れろ」

男が離れて、支えを失った体はそのまま壁を伝ってずるずると崩れて行った。
シャーロックが喋るたびに火花と炎が周りに飛んだ。

「ちょっとした暇つぶしだったんだけどね」
「上に報告するぞ」
「結構だ。僕らはお前たちみたいに慣れ合いは少ない。」
「さっさと消えろ、消し炭にされたいのか!!」

シャーロックが喋ってるのか、別の誰かがしゃべってるのか
分からなくなるくらいの大声と地響き。
地を這うような低い声。
銀髪の男は笑いながら部屋から出てて行った。
彼が出て行くのを睨みつけた後、シャーロックが駆けよってきた。

!大丈夫か、
「だいじょうぶ、なにもされてないよ」
「噛まれてないだろうな!?」
「うん、大丈夫、」

ぎゅ、とシャーロックに抱きしめられて今更になって
恐怖がふつふつと沸いて来た。思わず彼の背中に手を回す。

、もういい、部屋を用意させたから、そこへ。」
「でも、」
「目的は果たした。僕や君があそこに戻る必要はない」

抱きあげられて、素直に抱きついた。
足がすくむような恐怖が、今更になってやってきて
背筋が凍り、不安に取り憑かれる
シャーロックが軽くこめかみにキスを落とした。

「ずっといる。君とずっと一緒にいる。大丈夫だ。誰も来ない」
「ん。」

廊下を歩いて、知らない部屋に通される。
ベッドにゆっくりと降ろされたけれど、震える手が言うことを聞いてくれなくて



シャーロックの体がゆっくり離れて行く。
そんなに不安な顔をしていたのかしら、めずらしくシャーロックが頬を撫でた。

「しゃーり、はなさないで」

聞いたこともないような不安そうな声が出た。
シャーロックは少し眉間にしわを寄せた後、乱暴にベッドの中へ入ってくる。
痛いくらいに抱きしめられたけれど、今はその方が安心だった

「ここに噛みついていいのは僕だけだ」

肩口に寄せられた猫っ毛の癖毛がぐりぐりと跡をつけるようにすり寄ってきた。

「あのひと」
「ああ」
「おいしそうって。」
「ああ・・ここにいる奴に人間を文字通り食うやつはいない」
「ここにいないひとは?」
「いないこともない・・・・が僕らは人間とそれなりの関係を築かなければ、生き残れないことを知っている」
「・・・うん」
「大丈夫だ、絶対に大丈夫だ。君を傷つけるような奴は皆、消し炭にする」
「・・・・・」

シャーリーの声は怒りを含んでいた。
少しだけ、怖い
怒っているから、とか。言葉の意味が、とかじゃなくて
動物的な恐怖。
圧倒的力を感じて、怖い

「たべたい、っておもったことないの?」
「君に会うまでは。」
「・・・・・・・・・」
「冗談だ、僕にそんな趣味はない。それに僕は味わう方法を知っている」
「・・・シャーリー」
「だから君以外はいらない。」

不器用に寄せられた唇は、温かかった。