私の上司、つまりシャーリーの兄。
マイクロフト・ホームズがティー・パーティを開いた。
221bにも招待状が届き(というかSirが招待状を持ってきた)
私たちは正装してここに立ってる。大きな屋敷。広い庭。埋め尽くすほどの人。不機嫌なしゃーりー。
招待状を持ってきたときは絶対に参加しないと思っていたし、参加しないと叫んでたし。
なのに二人でこそこそ喋って数分後にはドレスの話になっていた。
一体、どうやって説得したのか。
「」
シャーリーに促されて庭を散歩する。
Sirはさっき会ったけどもう何処かで誰かに囲まれてることだろう。
「なんだ」
「この、あの」
腰に手が回ってるのをさらに近づいて小声で喋る
「この人たちって、人間?」
見た目は普通の紳士淑女だ。
しかし、私の隣に立ってる不機嫌な男はドラゴンだし。その兄もドラゴンだし。
「違う」
ああ、やっぱりなぁと唇をかみしめた
「皆?」
「結婚してるやつは妻か夫が人間の場合もある」
「種族同士の結婚は?」
「ある」
「異種同士は?」
「ないこともないな。」
「ふぅん」
人間とドラゴンは異種にならないのかしら。
でも厳密にいえばシャーリーだって半分は人間だし
それより気になるのが目線。
なんだかちらちらこちらを見られてるような気がする。
疑心暗鬼になってるのかしら
「疑心暗鬼なんかじゃない」
「っ!」
「でもそれでいい。そのために参加したんだ」
「なんで考えてること分かったの!」
「見てれば分かる」
明らかにシャーロックは注目されてる。
そりゃ、Sirの弟だし。でも誰も近づいて来て挨拶なんかしない。
何人かは社交辞令で近づいてきたけど、それ以降、好んでくる人はいない
「あれが?」
「普通の人間に見えるな」
「あのシャーロックが選んだって」
「理由は?あのシャーロックだぞ?」
「何人、振られたんだっけ」
「さぁな。人魚まで用意したって言うのに」
「どう見たって普通の女だよなぁ」
小声でひそひそひそひそ。
どう考えたって私の話だ。
「ね、シャーリー」
「これは暗に君が僕の妻になるということを発表する・・・」
「やっぱりっ・・なんで言わなかったのよ!」
「言ったら来ないだろう」
「来ないよ!」
「いちいち、親の用意した女に会ったりするのが面倒だ。僕は君と結婚する」
「・・・・・・小声でプロポーズするのやめて」
「プロポーズ?ちゃんとした方がいいのか?」
「人間界ではね!」
こっちも小声で言い争う。
何処に移動しても視線視線。
「分かった。計画する」
「突拍子のないことしないでよ」
「僕に常識を解くのか?」
「必要ない?」
「僕がルールブックだ」
「非常識!」
今日は珍しく天気がいい。
庭の中をぐるぐる歩いていたらうっすら汗をかくくらい。
それに視線と、それからこの何か分からないものに囲まれている緊張で
少し疲れてしまった。
「シャーロック」
「どうした」
「ちょっと屋敷の中で涼んできてもい?」
「・・・僕も」
「だめ、さっきSirがシャーロックは屋敷に入れるなって」
「ッチ」
「すぐ戻るから」
「分かった」
Sir曰く、シャーロックが図書室に籠ると出て来なくなるらしい。
とりあえず「結婚相手」を見せびらかすのは終わったから後は「弟」としての仕事をこなしてもらわなくちゃ。
こなせないだろうけど。
私はシャーロックと別れて屋敷に入った。
++++
図書室に入って慣れないパーティ用のパンプスを脱ぐ。
他の部屋は施錠してあるかパーティの準備で人がいた。
今は一人になりたい。
はしたないけど裸足になりたかった。
暑いし緊張するし、みられるし。
しかも結婚することは決定。
そこに私の意志はないのかしら。大好きだし、愛してるけど、本当に結婚していいのかしら
そんなことを回らない頭で考えながら図書室でぼんやりしていると後ろでドアの開く音がした。
使用人かしら、怒られるかも
「ごめんなさい、あの」
「あっ・・・・すいません!」
謝ろうと振り返ると銀色の髪の青年が立っていた。
「あっ、」
「あの、あ・・っと・・・すいません!僕も休憩しようと思って・・・ごめんなさい、別の場所を」
「いいです、よ!」
おどおどと喋る姿に思わずひきとめる。
銀色の髪がきらきら光った。
「ほんとに?」
「ええ。どうぞ」
「あの、あなた・・シャーロック・ホームズの・・・」
「・・あー・・ええ、そうよ。」
「こんにちは。」
「こんにちは。」
へにゃりと笑う彼。ちょっと可愛い。
少し幼いところが残っているように見えるが、見た目は、シャーロックや私と同じくらいだろうか。
「僕もあまり得意じゃなくて、あのパーティ―とか」
「ああ・・・私も。皆に見られてちょっと・・」
「そりゃ、あのシャーロック・ホームズの婚約者ってなると・・そうなりますよね」
「そうなの?」
「これまで絶世の美女って言われる人も・・皆、断られてますから」
「へぇ・・・」
またなんだかんだ言って見抜いて泣かして返したんだろうな・・
二股かけてるとか、同性愛者だとか、浮気性だとか・・・
でも相手は人間じゃないとしたら、結婚する時のポイントは違ってくるのかしら
食べ物の違いとか?でも大体の風景は想像できる
「でも・・貴方はなんだか、納得しました」
「どうして?」
「すごく、綺麗だし。彼に似合ってる」
いつの間にこんなに近くに立っていたのかしら。
なんだか甘い香りがする。
頬を触れられて、少し身を引いたけど
でも体はなんだかふわふわして心地いい
「そんなことないと思うけど・・・・貴方の方がずっと綺麗よ」
「貴方は・・外見はもちろんですけど、中身も凄く、綺麗だから。そう言うのに弱いんです。あいつら」
「あいつら?」
「ええ、ドラゴンとかユニコーンとか。そういうやつら」
「そうなの。」
「本当に、綺麗だ、」
「なんで・・・名前・・・」
彼の顔に影が差した。