カツカツと暗い道を小走りで歩く。
変質者はどの時代にもどの国にもいるもんだ。
かといって、今、路地に引きこまれたら後悔するのは相手なんだろうけど・・・
一応、これでもMI6に籍を置いている人間だし。などとくだらないことを考えながら我が家を目指す。

MI6に籍を置いて、スパイのような仕事をし始めて困ったことがいくつかある。
初対面の相手がどんな人で、どんな武器を持っていて、(もしくはどんな用心棒を連れているか)無意識に確認取ったり
休みで訪れた国でも、気軽に入ったレストランでも、狙われるなら、何処からか、どんな方法かなどといった考えがよぎったり。
自宅の前に高級車が止められていたら普通の人間でも立ち止る
暗闇の中で目を凝らす。知ったナンバーだ。

「マイクロフト・・・さん・・・?」

どうしてこんな時間に私の上司(の車)がここにあるんだろう。
恐らく、車の中には運転手のほかにいつも連れてる美人秘書が乗っていることだろう。
家に入るか少し悩んでいるとジョンとマイクロフトが降りてきた。
思わず路地に体を寄せる。
流石に何を喋っているのか分からないけど、とりあえず表情からして首にする、暗殺するなどと言った物騒な話じゃなさそうだ。

しばらく二人は話した後、マイクロフトが車に乗り込んで、道にはジョンが残された。
出て行こうとすると、フラットの中から別の男性の声。
ジョンを呼んでいるようだ。
さて、こんな夜更けにフラットを訪れていて、気兼ねなく名前を呼んでいる。
友人か、恋人か。
ジョンは女の子にもてるから・・ゲイだとは思ってなかったんだけど・・・
いや。バイって可能性も・・・・ああ。私も疲れてるんだな。
ジョンはため息をつくとフラットの中へ入って行った。
私は少しだけ時間をずらしてあたかも今、帰宅したかのように階段を上る。

「!!!!」

玄関を開けて、ただいま。と気の抜けた言葉を発しようと考えてた。数秒前まで
でも、それ以外の声にならない叫びが喉から飛び出そうになる。けど深夜ということも考えて押し籠めた。
ジョンはソファから立ち上がろうとして中腰で固まっている。
ちなみに私も部屋に一歩入ったきり、固まってしまった。
扉を開けてただいまー、と言うはずだった。
そしたら青い小さなドラゴンが飛んできて、私の肩に乗って、すりよるのが最近の日課だった・・・・はず。

「お帰り、 。」
「!!!」

あまり顔はよくわからないが、背の高い男性が私に抱きついている。
人間、驚きすぎると何もできなくなるもんだ。
殺気があれば、私だって銃を取りだすが
背の高い男性が私に抱きついて、顔をぐりぐりと押しつけてくるこの状況は体験したことがなくて固まってしまった。

「にゃああああああ!!!」

ワンテンポ遅れて叫んでしまった。しかも変な叫び声を出してしまった。
勢いをつけてその男性を押しのけて銃を握る。
男性は気を抜いていたのかよろけて床に転がった。
ジョンが慌てて私と彼の間に入った。

「じょ、あの!ちょ!!これ!だれ!!!!!」
「落ちつけ!ごめん!電話すればよかった!バタバタしてたから!」
「まい、マイクロフトさんが!きて、あの!」
「そ、そうそう!とりあえず、落ちつこう。 。」
「シャーリーは!!」

青いドラゴンがやって来ない。どうしたんだろう。
もう訳が分からない。
男性は全くよくわからないといった様子で目を丸くしていたが
立ち上がってジャケットの裾を伸ばし、私の前に立った。

「僕が、シャーリーだ。正確にはシャーロック・ホームズ。驚かせてすまなかった。」

・・・・・・・・・・・・ああ。私、疲れてるんだなぁ

++++++

ジョンが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ジョンとシャーリーが説明をしてくれた。
ジョンが説明をして、シャーリーが茶々を入れるので漠然としか話は理解できなかったけど。
ああ。ため息が・・・・

「つまり!この二カ月の間、世話をしていたドラゴンは、実は人間(混血?)で
家出したら、力の調整を間違えて
省エネモードになったものの、間に合わず
ジョンが拾ってきて、ここで元気になったから元の姿に戻って、
私が今朝、マイクロフトさんからじかに受け取った依頼内容の人物が
そのドラゴンだったってこと!?ああ!自分でも何言ってるか分からなくなってきた・・・!」
「おおむね、そんな感じだ。」
「・・ってことはマイクロフトさんも人じゃないの?」
「ああ。」

私はドラゴンの混血の人の下で働いてた上に、今のイギリス政府を動かしているのが
そんな人物ってことだ。もう頭パンクしそう。

「で、ここで暮らすと。」
「あの家では暮らせない。」
「・・・・・そう・・なの。まぁ人の(?)家の事情は踏み込まないもんよね・・ジョンは?どうなの?」
「・・・え!?あ・・そうか。まぁ家賃の負担が減るからいいかな。」
「明日、ハドソンさんに言わなくちゃね。」
「そうだね・・・ところでシャーロックは仕事とかどうするんだ?」
「・・・・・君たちが、つまり人間が知らないことが実は沢山起きてるんだ。そう言った内容の事件を
僕が調べて、馬鹿な人間が起こした事件なのか、それとも僕らのような混血が起こした事件なのかを分類する
・・・・そうだな、探偵のような事をしてる。マイクロフトが公にできない事件を持ってくるんだ。」
「な、なるほど・・さらにファンタジーな感じだな。」

良くわからないけど私立探偵と思ったらいいのかな。
時間を見れば夜中の3時。
明日は休みだからいいとしても・・ジョンは仕事じゃなかったかしら。

「ジョン?明日仕事じゃないの?」
「あ!そうだった・・・・あー・・・ヤバい・・寝るよ・・すごく疲れたし・・」
「私も寝よう・・・そうか。シャーロックはどうするの?ソファで寝る?」
「・・・・・・・・・。」

じ、と黙っていたけれどしばらく考えたあと、シャーロックはこくん、と小さくうなずいた。
よくよく考えたりするのは明日にしよう、今日はもう疲れた。
とりあえず予備の毛布を降ろしてきて、シャーロックに渡す。
・・・・これがあのドラゴンだったんだもんなぁ・・・

「おやすみ、シャーロック、ジョン」
「おやすみ、。」
「ああ、おやすみ。」

やっと、ベッドに横になるれる!と思うと嬉しくて仕方ない。
シャワーは明日でいいや。色々あり過ぎて疲れちゃった。
案の定、私はベッドにもぐった後、すとん、と眠ってしまった。