眉間に皺を寄せたシャーロックはシーツにくるまったまま
顔の前で両手を合わせて座っている。
下唇を噛んで言葉を選んでいるようだ。

を見てると・・・・なんでか・・・こう・・・わからん!」
「ただでさえ、人から遠い生き物なんだ・・僕に分かるわけないだろ。」

と、言ったところで階段を誰かが上る音がして僕は立ち上がった。
わりと古いフラットなので人が来れば分かる。
このタイミングで現れるのは、シャーロックの兄の、えっとマイクロフト?とか言う奴だろ。
ドアが開かれて、現れたのは、誰が見たって高級だと分かるスーツを着た英国紳士だった。

「シャーロック、どういうことか説明してもらおうか。」
「お前に言うことなんかない!」
「とりあえず、服を着てきなさい。」

右手に傘を左手に紙袋を持ったマイクロフトは紙袋をシーツにくるまった弟に押しつけた。
しぶしぶ、と言った様子でシャーロックは風呂場へ。

「え、えっと。」
「弟が世話になった。本当に感謝してる。ああ、私はマイクロフト・ホームズ。」
「ジョン・ワトソンです」
「知っているよ。拾ってくれたのが医者でよかった。あと、あれを見て騒ぎ立てない人で。
しかし。世間は狭いものだね。ついさっき、あれの捜索を頼んだばかりだと言うのに。」
「その・・・・・貴方も・・・」
「あれと同じようなものだよ。あまりあの姿を取ることはないけれどね。」

マイクロフトは何もかも知っている顔で、(というか知っているようだ)微笑んだが
一瞬、その柔らかな瞳が真っ黒に、それが人でないものの瞳だと一目でわかるようなものに変わった。
けれど瞬きした間に戻っていて・・・・これ以上、何か言うのはやめておこう・・・。
何だか今日一日で、夢物語の中の登場人物になったようだ。
僕はとりあえず、椅子をすすめる。
がちゃんがちゃん聞こえる辺り、シャーロックがここへ帰ってくるのはまだ先になりそうだし。

「捜索って・・・」
「君も良く知っている人だよ、彼女は優秀だからね。それに彼女が保護している可能性の方が先に出ていた。
で、調べていたら君の名前が浮かびあがり、訪問するところでシャーロックから電話があった。
少し都合がよすぎるが、それも人生かな。」
「・・・・・彼女・・てことは・・・・ですか?ん?ということは・・・貴方は、その、政府関係・・」
「兄は、イギリス政府そのものみたいなもんだ。ジョン、あまり喋るなよ、今後の人生が生きにくくなるぞ。」

風呂場から帰ってきたシャーロックはこれまた上質なスーツに着替えていた。
シーツはちゃんと洗濯機に入れてくれたんだろうな。
色々突っ込みたいことが山ほどある。
僕が立ち上がるとシャーロックがすぐさま僕の代わりにお兄さんの前に座って言い争いを始めた。
僕はその様子をぼんやり聞きながらカップに紅茶を注ぐ。
と関係あるんだな、しかもイギリス政府そのものってなんなんだ。
ドラゴンなんだろ、人生語るなよ・・てか人生・・・でいいの・・・
いや、まて生きにくくなるって、どういうことだ・・・・・・・・追求したくない・・・

「さて。私は失礼するよ。弟は私がいると機嫌が悪いしね。」
「え、と・・あ、はい」
「紅茶はまたの機会にいただこう。それじゃあ。」

英国紳士は傘を持って立ち上がった。シャーロックはむすっとした表情のまま、座っている。
聞き流していたが口論はマイクロフトが言いくるめた形になっていた。
僕はどうしたらいいか分からないけど、とりあえず玄関まで彼を送った。
道路には高級車が止まっている。もう、どういうことだ!人間じゃないんだろ!なのにこれに乗るのか!
と喉まで出かかったが、なんとか押しこんだ。

「なにかあったら、私の携帯に連絡をくれるといい。こちらから連絡することもあるかもしれない・・
が、ま、それはことが起こったらの話だ。」
「・・・・・事が起こらないことを願います。」
「だといいな。弟はずいぶんと君と、を気に言ったらしい。しばらくよろしく頼むよ。」
「・・・・はい?え、彼。家に帰らないんですか・・・」
「その辺りは・・また、といいたいところだが、その通りだ。家には帰らない。」
「・・・・・・・・・」
「よろしく頼むよ。」

お願いだから微笑まないでください・・・・・。
ハドソンさんに同居人が増えたことを話さなくちゃならないことや
そもそもが帰ってきたら、会議だな、とか考えてると胃痛が・・・・

「何かまだあるかね?」
「・・・・・あ。そうだ。シャーロックがを齧るんですが、
あれってどういう行動なんですか。これ以上、傷が増えるのはちょっと。」
「・・・そうだな。確かに彼女にこれ以上、傷が増えるのは心苦しい。が、あれはどうしようもない欲求だからね。」
「・・・・そうなですか?やっぱり、こう・・・破壊行動、とか、食欲とか・・そういう?」
「そこまで深刻なものじゃなないがね。場合によっては破壊行動につながる場合もあるが、
それは人間だって同じだろう。」
「・・なんなんですか?」
「求愛行動だよ、ジョン。君たちは愛しい人に跡をつけたりするだろう?あれと同じ行動だ。
まぁ弟は実に本能的に行動しているようだが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、ですか・・・」
「それじゃあ、失礼するよ
・・・・ああ、ジョン、もし彼女がこれ以上傷だらけになるのを防ぎたかったら、他の方法を教えてやってくれ。」

僕が答える前に高級車はロンドンの闇へと消えて行った。いやな笑顔を残して。
一夜にしてすごい住みにくい家になった。
僕が拾ってきたドラゴンが、実は人間で、そのドラゴンの兄はイギリス政府そのもので、
ドラゴンはドラゴンで、僕のフラットメイトに恋をしているようで
うわぁ・・・・

僕にはため息と胃痛しか残されなかった。
と、とりあえず早く帰ってきてくれガゼル

「早く上がってこい!ジョン!」

早く帰ってきてくれ!!!!!