朝、を送りだしてから、彼女が作っておいてくれた目玉焼きとベーコンをフライパンから皿へ。
シャーリーが、自分の分を忘れるなと言わんばかりに僕の頭の周りをパタパタと飛んでいる。
冷蔵庫からマフィンを一つ出してこれも小皿の上へ。
ずし、と頭に重みを感じたと思うと、食器棚のガラスには見なれた金髪の男と、
男の頭の上に小さな青いドラゴンが座っている。

「ファンタジー映画じゃないんだから・・・・。」

といいつつ、ケトルに水を入れて、ガス台に乗せる。
小さめのマグカップと自分のカップを取り出して、紅茶を入れる準備
どういう訳か、シャーリーの朝食は紅茶とマフィンを用意すると決まったらしく
何ともドラゴンにしては優雅な朝食だ。
ケトルが音を立てて、ティーポットにお湯を注いでちょっと待つ。
机の上に置いて、向かい側にマフィンとマグカップ。
頂きます、と言うとシャーリーも合わせたようにマフィンを齧りだし。

「ドラゴンと朝食かぁ。」
ほんとに映画の中の世界だと思う。
自分もよくこんな訳の分からない生き物を拾ってきなぁ
そしてもよく、こんな訳の分からない生き物の世話をしてるよな・・齧られてるのに。
時計を見ると家を出る時間が迫っていた。
ばたばたと朝食を駆けこんで、歯を磨いてジャケットに腕を通す。
今日は午前診までが担当だから早く帰って来れるはずだ。

「行ってくるよ。」

声をかけると青いドラゴンは小さく欠伸をして、ソファの上に丸くなっていた。

+++

今日はも遅いって言ってたし、食事は何とか自分で作るしかなさそうだ。
スーパーによってから221bを目指す。
不足していたものと、それから簡単にできそうなものをいくつか選んで帰ってきた。
午前診だけといえど、風邪がはやっているからか、やっぱり少し疲れたなぁ。
ひと眠りするかな、と思いながら部屋のドアを開けると
シャーリーは長い首をこちらに向けていた。

「ただいま。」

と言ったところで返事は帰って来ないんだけど。
キッチンに行って、袋の中から食べ物を仕分ける。
ぐ、と背伸びをして、あくびが漏れた。
時計を見ればまだ三時。ひと眠りするかな、とソファへ転がる。
近くにあった読みかけの本を手繰り寄せて、ぱらぱらとページをめくったものの、
結局すぐに眠ってしまったようだ。

+++

「ジョン・・・起きろ・・ジョン・・・」

誰かが僕の事を揺らしながら起こそうとしてる・・・
誰かが・・・?男の声だ・・ここに住んでるのは・・・
と、そこまで考えて急いで起床。
銃を持っていたら、銃を奪って突き付ける、
銃を持っていなかったら、殴りつけて床へ転がす!

「・・・・・・・・・・え?」

どっちでもなかった場合を考えてなかった。
目の前には背の高いブルーアイズの男がシーツにくるまって座っていた。
シーツの隙間から素肌が見えてる当たり、全裸なのか。
僕は立ち上がって引き出しを開ける。

「ちょ、ちょっとまて!ジョン!僕だ!銃を出すな!」
「ちょっと待てないよ。僕は君の事を知らないけれど、君は僕の事を知ってるみたいだね。
大丈夫じゃないぞ。それは妄想だ。君の脳内での僕の役割がどんなものか知らないけど。
家の中に全裸の男。しかも不審者、変質者。あー・・・どうしよう・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!銃を降ろしてくれ!僕だ!シャーリーだ!!!」
「そういや、あのドラゴン何処行った・・・・?炎吐くぐらいだから、番犬変わりにぐらいなれよ・・」
「僕だ!その!青い!ドラゴンは!僕!なんだ!」

目の前の男は相当背が高いらしい。シーツが落ちないように必死になりながら(見たくないしね)
後ろへ下がっていく。僕は緩く銃を突きつけて、どのあたりを狙えば、応急処置ができて、相手が死なないか
救急車が何分くらいで着くか、が何時頃に帰ってくるか、彼女が帰ってくる前に処理しなきゃ、などと
色々と考えていたために、彼の話を半分ぐらいしか聞いてなかった。が
目の前の男がご、と小さく炎を吐いて、ちょっと止まった。

「・・・・・・え?」
「ハイド・パークで僕の事を拾って、今朝はマフィンと紅茶を出してくれただろ!」

「・・・・・今、炎を。」
「僕だ。」
「シャーリーの癖なんだ。ストレスがたまるとやるんだ」
「僕だ。」
「君が?」
「シャーリー・・・というかシャーロック・ホームズというのが僕の名前なんだが。あながち、君の勘は間違ってなかった。」
「・・・・・・・・・ちょっと待て。」
「だったら銃を降ろしてくれないか。」

僕は足から力が抜けるのを感じた。
ぼすん、と一人がけのソファに座る。
シャーリー・・・・シャーロックは向かい側の、いつも寝ているソファに足を上げて座った。
ドラゴンを拾ってきた→人間になった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・薬なんかやってないぞ・・・・

「ちょっと説明してくれないか。」
「その前に、電話したいところがあるんだが、携帯持ってないか?」
「ドラゴンが!電話とか!言うな!!!!!」
「君が、僕らの種族に対してどういったイメージを持ってるか知らないが、
僕らから考えて5代くらい前から人間と共存してる。君の持ってるイメージはそのくらい前のやつらのだろ」
「うわあああああああ知りたくなかったあああああ!」
「携帯!」
「分かったよ・・・・もう好きにしてくれよ・・・」

携帯を投げつけると彼は使い慣れたようにボタンを押した。
青いドラゴンを保護した時点で、幻覚症状かとも思ったけれど、
青いドラゴンが人間に進化して、しかも僕の前で、携帯で電話してる。

「マイクロフトか?僕の服をベーカー街の221bまで届けさせろ。・・・・・お前は来るな。人をよこせ。
・・・・説明?言う必要ないだろ・・・・・・・・・・くそ!・・・わかった・・・ああ。」

ぷち、と電話を切ると、明らかに不機嫌な様子でもう一度ソファに座り直す。

「マイクロフトって誰だよ・・」
「敵だ。」
「敵に電話したのか・・・。」
「なんだか疲れてるな、ジョン。」
「・・・・・そうかな・・・・そうだな・・・・うん。」
「兄だ。僕の服を持ってくるそうだ。」
「僕らは二カ月もこんな奴の世話をしてたのか・・・・。」
「その点は、感謝してる。」

明らかに感謝してない様子でシャーロックは続けた。
信じてる時点で僕も異常だが、もうなんか・・どうでもよくなってきた。
シャーロックは言いにくそうにものすごく悩みつつ言葉を発していく

「ちょっと、失敗して・・・魔力・・と言ったらいいか。人間の言語では表せないが
そう言った、部分を調整・・しきれず、倒れて、人に見られるのもまずかったが・・
力を節約するために・・あの姿になってたんだ・・・助けてもらわなかったら・・・死んでた。」
「で。その力?が戻ったから、今、こうして喋ってると。」
「そういうことだ。」
「・・・・まぁ・・・・良かった。」
「うん。ああ、そうだ。指齧って悪かった。」
「それはに言ってやってくれ。」
「・・・・・・・・・うん・・そうかも・・・」

彼は指先を合わせて顔の前で組んで、しばらく黙っていた。
僕もことの展開について行けず、ケトルを火にかける。
もう一人来るんだよなぁ・・・兄ってことはその人も人じゃないってことだよな・・・・・
あー・・・・ここは魔法の国じゃないんだぞ・・・・そりゃ幽霊に市民権与えるような国だけど・・・!

「わからん!」
「うわ!」

僕が丁度、紅茶をいつものマグカップに入れて、彼の前に置いた瞬間叫んだもんだから
マグカップの中の熱湯をかけるところだった。

「な、なにが?」
「ジョンに対して、齧ったのは一種の警戒行動だ。生き物なら本能的に備わっている。
君が僕を見て、銃を取りだしたように、僕もあの時は混乱状態だったからな。
が、僕がにたいして抱いているのはそういった種類の・・・警戒とか、そういうことじゃないんだ・・」
「・・・・・・じゃあなんでかじったりするんだよ。」
「それがわからないんだ!」
「・・・おいしそう・・とか?」
「人を食べる趣味は無い。」

それは趣味がある奴もいるってことか。おい
深いため息とともに、喉元まで上がってきた言葉をごまかした。