ジョンがシャーリーを拾ってきて二ヶ月が経った。
シャーリーもずいぶんと慣れたみたいで、部屋の中を自由に飛び回ってる。
時々、ジョンの食事を(特に好きでもなくても)横から奪い取って食べたりしてて
仲いいなぁ、と笑ってしまう。
そうそう!こないだ、新聞の束に向かって炎を吐いてボヤになりかけて大変だった。
説得(?)により炎は暖炉に向かって吐くように言ってみると
ちゃんと伝わったのか、それからは暖炉に向かってはくようになった。
なんか、ストレスがたまってるのかなぁなんて思う。
イギリスの中心、ロンドンでドラゴンを秘密裏に飼うってことで心配事はいっぱいあったけど
ある一点を覗いては今のところ、いい感じで暮らせてる。
ある、一点を除いたらね

「いたたた・・・」

困ったこと、と言えば、最近シャーリーが私を齧る癖がついちゃったってこと。

「あー、はい。もうシャツ着ていいよ。」
「ありがと、後・・・あ、手首」

肩にシャーリーが巻きつくせいか、首を齧るのが好きなのか・・・・
特に、首周りから肩にかけてが酷い。
小さな噛み跡が沢山あって、中にはちょっと出血してるものもある。
ジョンが医者でホントによかった、と思いながらガーゼを張り付けてもらう。
歯が痒いのかも、と言ったらジョンがシャーリーの口内を見てくれた(ものすごく嫌そうだった上に、ジョンはまた指を齧られた)
けど、歯は生えそろってるらしい。
ガーゼを変え終わると迷惑そうな顔したシャーリーがパタパタと近づいてきて、
肩へととまった。長い首と尻尾をマフラーみたいにして巻き付ける
鱗なので残念ながら温かくはない。どっちかと言えば、生暖かい感じ。

「こいつのせいで治療してるって分かってるのかな。」
「ねー。」
「痛くないの?」
「や。血が出ると痛いけど・・・それ以外はあんまり・・・口が小さいからって言うのもあるのかな。」
「最近、ソファじゃなくての部屋で寝てるし。」
「起きたら火事になってないかドキドキするんだよね・・・・。」

最初は、一階のソファの上で眠っていたのに、いつの間にか起きるとベッドの脇で丸まってて
そのうち、私が二階へあがると一緒についてくるようになった。

「さて。そろそろ寝ようかな。」
「明日は・・仕事だよね?」
「うん。夜遅くなるかも。先に寝ててね。」
「あー、こいつと二人で留守番か。」

ジョンにお休みを言って、二階へあがる。
勿論、首に巻きついてるシャーリーは部屋に入ると
枕の横に作ったシャーリー用のスペ―スに当たり前の顔をして座った。

++++

「最近、ペットでも飼い始めたのかな?」

パソコンに向かって書類を書きあげていると
後ろから傘を持った男性が声をかけてきた。
マイクロフト・ホームズ。MI6の前身を作っただの、政府を裏で糸引いてるだの、噂は絶えない不思議で(少々危険な)人である。

「噛み跡が酷い。」

私のガーゼだらけの首を指差して彼は笑う。
何とも、底知れない感じの笑顔だ。
まさか。ドラゴンを一匹、なんて絶対に言えない。

「え、ええ・・・・まぁ・・」
「犬かな?」
「え、あ・・はい、子犬を預かってまして、飛びかかってくるんですよ。」
「それで手首も噛まれたと、」
「う・・あ。はい。」
「気を付けたまえ、破傷風などめったにないが、腫れたりしたら病院へ行ったほうがいい。」
「ありがとうございます。」

と、言った後、彼は微笑んで出て言った。
一体何を言ったかったんだろう・・・・・。
なんだか、遠まわしな・・なにかばれてるような・・・
と、思っているとお昼が終わってすぐに彼のオフィスに呼び出された。
仕事で失敗は今のところ報告がない。ということはまさか・・まさかね。
深呼吸と結構な勇気を振り絞って扉をノックする

「・・・失礼します。」
「ああ。。君を優秀な職員として、個人的だが少し頼みたいことがあるんだが。」
「お役に立てることなら」

とりあえず、シャーリーのことじゃないみたい。
ばれないように小さく息を吐き出した。
彼が、「ちょっとドラゴンを探してくれないか」なんてファンタジーなこと言うわけないものね。
椅子に座る彼が、向かいの椅子をすすめたので腰を下ろす。
彼の頼みは断ってはいけない、というのがここのルール。
別に首を飛ばされるわけでもなし、嫌味を言われるわけでもないが
ここで彼の頼みを断れば、次に頼まれる仕事は絶対に断れない。
それに彼を敵に回すことは今後の人生を歩むうえで危険すぎる。
こんなに上品で、優しそうな人なのに、出てくる噂はぞっとするものばかりである。

「恥ずかしい話なんだがね、弟が失踪して。」
「ええ!?」
「いや。家出はよくあることなんだが、捜せば見つかるからね、頭が冷えた辺りで回収するのが常なんだが
君より前に何人かに探させたんだが、いい結果が見られなくてね。申し訳ないが、少し当たってみてくれるかい?
シャーロック・ホームズという男なんだが・・・。」

手渡された何枚かの写真には、背の高くて細い男性がうつっていた。
目の前に座ってる英国紳士とはあまり似ていない。

「シャーロックは母似でね。私とはあまり似ていない。ああ、勿論、通常業務を優先してくれて構わないよ。」
「分かりました。少し当たってみます。」
「ありがとう。」

私は彼のオフィスを出た後、特に優先すべきこともなかったので
彼の写真をスキャンして、ちょっと国家機密で言えないけれど色々やって公園や道に設置してある監視カメラから
彼らしい人をアップしてみたものの、彼っぽい人は見つからなかった。

そのあと、仕事をいくつかこなし、オフィスを出たのは丁度、日付が変わるか変わらないかくらいだった。
ジョンはもう眠っただろうなぁ、シャーリーはソファかしら。そういや、シャーロックの愛称って
シャーリーよね、なんて考え中がらロンドンの街並みを小走りで抜けて行く。

我が家はもう少しだ。