【まいんどぱれす】

「・・・助けてくれ・・」
「どしたの?ジョン」
「シャーロックが2日ほどマインドパレスから帰って来ないんだ・・・」
「・・・私が出張してる間に一体なんで・・」
「というか、君が出張したから、マインドパレスに引きこもったんだよ!」
「わ、私のせいじゃないよ!」
「とりあえず、叩いても声かけても反応ないし、ヤードから事件もないのに電話してもらったりしたけど反応しないんだよ・・」
「ちなみに、仕事は?」
「ここ2日は全く。」
「・・・・・・食事は?」
「4日ほど食べてないね。」
「・・・・・ジョン、マインドパレスに引きこもったシャーロックを引き戻す最終奥義教えてあげるよ。」
「そんなのあるの?」
「大学時代によく使った手何だけどね。えーっと・・使えそうな・・・あ、この本借りてもいい?」
「え、薬の辞典いいけど・・何に使うんだい?」
「こうする。えい!」
「痛い!!!」

彼女は薬の辞典の角でシャーロックの頭を殴った。
そりゃ痛いだろう・・重くてオフィスに持って行くのを諦めた本だ。
おかげでシャーロックは戻ってきてくれたけど。

「何度言ったら分かるんだ!マインドパレスに行ってる間は邪魔をするな!!!」
「シャーロック?何度言ったら分かるのかしら。最低1日1食は何か食べてね、って」
「・・・・う・・だからって殴ることないだろう!」
「その他の方法でシャーロックが帰って来てくれるなら何だっていいわ。」
「・・・・・・・・・・だ・・・・な・・ジョン!」
「ジョンに八つ当たりしない。ワイン買ってきたからご飯にしよう。なんかある?」
「・・・なにもないかな。シャーロックが帰って来ないから外食してたし・・ごめん。」
「だと思って買い物してきた。出張行って帰りに買い物までしてくれる同居人はそういないよ?感謝してよね」
「うん、もう一人を現実世界に戻す方法も知ってるしね。あれなら僕もできる。」
「出来るだけ厚くて重い本でやるのがオススメだわ。」
「覚えておくよ。」
「ジョン!!」

だけど、やっぱりシャーロックがマインドパレスに引きこもったのは
彼女がいないせいだったらしくて、彼女が家に帰って来てから
3日ほどはずっとべったりだった。
相当、背の高い男が、身長の低い女性に何処に行くのもくっついている様子は
ちょっと面白かった。いや、ものすごく面白かった。
最近になって見なれた光景になった辺りシャーロックも変わったなぁなんて思って
独り身がやけに身にしみる・・・・。



【さーびすしましょ!】

「・・・・・・・ん・・・」
ゆらり、と自然に目が開いた。おかしいな、目覚ましかけたはずなのに、とナイトテーブルに腕を伸ばしたものの、
最近カバーを変えたスマートフォンは手さぐりでは見つからなかった。
腰が痛い。正確には喉も痛い。目視できるだけで、二の腕には赤い跡が1つ、2つ・・・。
シーツにくるまりながら寝がえりをうてば、久しぶりに眉間に皺の寄ってないシャーロックの寝顔。

「・・・・・」
「・・・・・・・・なんだ」

目をつむったままのシャーロックが低い声で突然呟いた。
まぁ、起きてるとはなんとなく思っていたけれど、というか、驚かされ過ぎて、もう驚かない。

「んー・・なんでもないよー、おはよ」
「ああ、おはよう」

ゆるり、と蒼い瞳が覗いた。
裸のまま、一枚のシーツを巻き込んで彼に近づいて、唇にキスする

「ん、」

ちゅう、なんて間抜けな音が寝室に小さく響いて、初めは軽いキスだったのに段々深くなって深くなって。
上からのしかかられて、窒息しそうになって、慌てて肩を殴ってみる。

「は、ん・・・んぅ・・・・ちょっと・・・シャーロック、んっ・・も、いいって、わかった・・・あぅ・・ん・・・・・・・・・・窒息死する!!」
「・・・・」
「いや」
「まだ何も言ってない!!」
「なんとなくわかる!!!!って言うか、誰か外で待ってる!!!!!」

さっきから共同スペースでは足音が二つ、いったりきたり。
一人はジョン。聞きなれているから分かる。もう一人は、多分、レストレード。

『・・・・わかってるなら、起きてきてくれ・…』

情けない声が聞こえて、噴出した。ちょっといじめすぎたかな。
シャーロックはぶつくさ言いながらシーツを思いっきりひっぱった
慌てて私もシーツを抑える

「なにするんだ!」
「こっちの台詞!!!!」
「全裸で向こうに行けと?流石に僕もそれはしない!!!」
「私、どうするのよ!!!」
「服を着ろ!」
「それこそこっちの台詞よ!!!!」

ぐいぐいとシーツが引っ張られる。
あくまでも服を着る気はないらしい。

「わかった、ちょっと待って。」

服なんか、とりあえず応急処置で床に散らばってるシャツを探す。自分のシャツをつかんで小さく座る。

「見なれてる、からそんな必要は」
「はやくいけ!!!」

抗議の意味で投げたクッションは、素早く部屋を出て行ったシャーロックが閉めた扉に当たってしまった。
ベッドの上で残された私は、足の付け根ギリギリのシャツを押さえて、どうしようかと悩む。
パンツとか、変えたいし、着替えたい。だけど着替えは二階・・・・・どうしようかと悩んでいるともう一枚。
紫の大きなシャツ。迷わずそちらを取って、ボタンを締める。流石、身長184の男が来てるシャツだ。
私が着ればワンピース。洗濯物をまとめてドア開けたら、目を見開く男が三人。もう、なんか恥じらっても仕方ない気がしてきた。

「お仕事頑張る三人に、さーびすしょっと。」

当たり前だが、Sirの気配があったら、絶対にこんなことしない。