・との出会いはたった一度。
そう言えば、その時は僕が
「そう言えば、初めて会ったときはジョンが銃を構えていたわね。」
「・・・そうだったね。」
僕が彼女に銃口を向けていた。
彼女が入れてくれたコーヒーを口元へ運ぶ。
香ばしい香りは何とか僕の精神を支えてくれる。
「
・・・今日、仕事は?」
「で結構よ。今日は仕事お休みなの。貴重な休日よ、」
「そ、そうなんだ。、君は・・シャーロックの学友だったんだね。」
「ええ。大学が一緒だったの。でも学科は違ったわ。」
「そうなのかい?」
「ええ。彼は理系で私は文系だったから。ただ、図書館で会うことが多くて。
一度、図書館に閉じ込められたことがあってね。
それから仲良くなったのよ。ああ、仲良くなったというよりかは・・そうね、戦友?みたいな感じ。」
「その関係を表す言葉はとってもあってると思うけど、閉じ込められたって・・?」
「・・ありがと。」
ふんわり笑って彼女はコーヒーにミルクを混ぜて飲んだ。
口にはつけたものの、少量だけ口に含んだ程度のようだった。
「若き日のホームズ青年冒険劇をここで話してもいいけれど、今は本物が起きたから。問いたださなきゃ。」
彼女の向こう側でソファに横になっているシャーロックは未だ気を失っているように見える。
彼女は笑ってコーヒーをもう一つ用意しマグカップをもって立ち上がる
「おはよう、探偵さん。」
微動だにしなかったシャーロックが目を見開いて急に動き出した。
「流石
!気付いていたか!」
「どうかしら。鎌をかけただけかも。コーヒーはいかが。」
「それでもジョンは気付いてなかったからね。ああ、もらう。」
シャーロックはがば、と起きあがってコーヒーを受け取った。
彼が口にそれを含んで、ものすごく眉間に皺を寄せるのを
彼女は、それはもうきらきらした瞳で嬉しそうに見上げていた。
「・・・・・・。」
「シャーロック、コーヒーのお味はいかがかしら?」
「・・・これは、砂糖が、入っていない。」
「ええ。嫌がらせだもの。不法侵入よりかわいらしいでしょ。私のは丁度いい甘さだわ。」
そこでやっと彼女が、・が本気で怒っていると言うことが分かった。
空気がピシリ、と氷つく。
彼女は笑っていた。ニコニコと笑いながらコーヒー片手に眉間に皺を寄せるシャーロックを見上げる。
彼女とシャーロックでは身長差さがあり過ぎる。
「・・
・・事件だ。」
「一般市民には関係の無いことね。忠実なる助手さんを連れて行ってらっしゃい。」
「
の協力が必要だ。」
「ジョン、気を悪くしないで頂戴。忠実かどうかはさておき、シャーロックの友達って時点でそれは
とってもすごいことなのよ。」
シャーロックはくるりと身をひるがえしたガゼルに話しかけていたが、
全く聞く気は無かったらしく僕の方へ振り返る。
シャーロックの眉間のしわが濃くなった。
が、彼がいつもよりずっと穏やかなことに驚いていた。
「あ、や、いいよ。気にしてない。」
「ジョンは名犬だからな。」
「シャーロック、そこまで言っていいとは、いってない。」
「まぁ、名前も犬っぽいわね。」
「
!」
「ごめんなさい。」
くすくすと笑いながら
は向かい側に元通りに座って新聞を手繰り寄せて開く。
彼女は、無言でクッキーをすすめてくれたけれど
僕はそれを受け取らなかった。
「
、事件なんだ!」
シャーロックは机をたたいて彼女の気を引いた。
顔を近づけて怒鳴りつける。
は、一向に表情を変えない。
「君の!手助けが!必要なんだ!」
「手助けなんていらないでしょ。」
「あった方が面白い。」
「貴方の面白さのために貴重な休日は譲れないわ。」
「あー!もう!
なんでわからない!僕が!この僕がわざわざ君の家に来て、頼んでるんだぞ!」
「不法侵入。」
「方法はどうでもいい!」
は怒鳴るシャーロックに目もくれず
ずっと新聞を追っている。
その慣れた対応に僕は見習うべきかと観察していたけど
僕は、ここまで忍耐強くなれないなと思って
途中であきらめて事の成り行きを見ることにした。
「そうね、じゃあ、探偵さん、貴方私に何をくれるの?」
「・・・・・報酬か・・・確かにそれは決めておかないと。ただし君が協力するなら。」
「そうね。それは事件の解決に協力できたら、でいいわ。貴方が関わってるってことは
人が死んでるのよね。それは問題。解決できなかったらもっと問題。報酬は、なんでもいいかしら?」
「君が来れば解決する。そもそもこの事件は兄が関わってる。言えば何でも用意するだろ。」
「じゃあ報酬は手がたいわね。ちょっと待っててコート取ってくる。」
かたんと彼女は立ち上がって部屋の奥へと入っていた。
シャーロックが僕の方へ目線をずらして
「ジョン、何を笑ってる」
「いいや・・いいや、別になんでもないよ。」
「そんなことないだろ。笑ってる。」
「笑ってないよ。」
確かに僕は笑っていたし
シャーロックがそのせいで機嫌をさらに悪化させたが
とシャーロックの会話は実に、面白く
それは子供と母親のようで
それは心のわかちあった友人同士のようで
友達はいないと豪語していた彼の友人として
その光景は何とも彼の過去を覗き見たようで愉快だった。
は真っ白のコートと青色のマフラーを巻いて
鞄を持ってやってきて
やっと僕らは首を長くして待っている警察署へと戻ることになった。