ローブを椅子の端に投げてベットに潜り込む。
流石に、冬は服を着て寝なければならない。
寒くて風邪をひけば、ジョンに何を言われるか分からないし
だって怒るだろう。
首元が苦しい。なんで眠るときにこうも決まったものを着なければならないんだ。

ぬくまった体で、思考が途切れ始める。
この瞬間が一番つまらない。
睡眠は重要だが、頭は常に回転させておくべきだ。
ジョンは頭を使わない。理解しても思考しない。
は・・・は理解して思考するがもう一歩足りない。
そう言えば、今日の彼女は何かと嬉しそうだった。
嬉しそう?楽しそう?
僕が楽しい時は死体を前に難事件を抱えた時。
彼女は、僕と二人っきりで何が楽しかったんだろうか。
つくづく感情というものがつまらないものだと思う。
でも、彼女は、触れると温かい。自分の思ったことを彼女に告げた時
彼女は僕が恋をしていると言った。
わからない。敬愛はわかる。僕が母やハドソンさんに向ける気持ちだ。
友情も、多少分かる。ジョンが、そうだ。
愛は分からない。アイリーンとゲームをしたときに、少しその話題に触れたが
人が人を愛しているかどうかは分かっても
僕が誰かを愛するなんて、思いもよらない。分からない。
ただ、彼女に触れると温かい。伝わる体温もそうだが、なんだか、温かい。
ジョンに言わせれば愛しさだの恋だのなんだのと言うだろうが。
彼女は小さくて、壊れそうな体に、想像できない勇気と行動力を秘めている。

思考が緩み始めた。瞼が落ちそうになったとき、扉の向こうで気配がした。
彼女はまだ眠っていないのか。何か用事があるのか扉の向こうで立ったまま動かないようだ。
ドアノブが回る。

「シャーロック?寝てる?」
「寝てる。」

とっさに口に出た言葉は苦笑した彼女には伝わらなかったようで。
彼女は寝巻姿で僕の部屋に入ってきた。
枕を持って。
何故。

「このベッドは一人用だ。」
「そのベッドは成人男性の一人用だけど、セミダブルじゃない。」

彼女が言っていることは確かにそうだが、そういうことが言いたいんじゃない。
寝間着姿、枕とくれば同衾だろう。なんのために。
僕は起きることもせず視線だけ彼女に向ける。
はため息をつきながらそっとベッドサイドに立った。

「今晩はここで寝ます。」
「・・・・・・なぜ。部屋は?セントラルヒーティングがまた壊れたのか?いや。ここはついてる。二階だけ?」
「違います。」
「・・・なぜ。」
「一応。聞くけどね。シャーロックと私は付き合ってるわけだよね?」
「世間的に言うなら。ただ。僕にそういった事柄の常識を説かれても困る。それに、僕らの関係は実に曖昧だ」
「説く気はないし、やってほしいとも思わないんだけど。」
「・・・・・。」
「こっちだってどうしたらいいかわかんないのよ。なので。私から行動に移すことにしました。」

彼女はベッドサイドに座る。
音は立てずにベッドが少し傾いた。
彼女は何故か、少し震えているように見えた。

「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・僕は。」

僕は恋愛と言うものが分からない。
理解するのは困難だし、それを理解したからと言ってどうなるんだ。
彼女の言う大学のときの僕の暴走というのは感情で動いたわけじゃない。
あれはもっと、もっとドロドロした、そうか。そうだ嫉妬に似た感情。
僕には、不要な知識も感情もいらない。それは推理に必要ない。
ただ。が、それを望むなら。
僕がそれに応えることが必要だろう
じゃないと、彼女は

「・・・わ、かった。」

彼女の表情が緩んで、が緊張していたことに気付いた。
握りしめた手は、冷たくなっている。
言ったはいいが、ベッドに入るのは勇気が出ないようで彼女はベッドサイドから動かない。
ここまで大胆に動いたって言うのに。
冷たくなった手首をひいて、中に引っ張る。
彼女の体は倒れて腕の中に入ってきた。
この程度の力で倒れるような体なのに。
は、固まったが、次の瞬間くすくすと笑いだした。

「なんで笑う。」
「べつにー」

彼女は眠りやすい体制をとるためにゴロゴロとシーツの中を動いたが
結局、二人向き合うことになった。
彼女の黒い頭が見える、顔は見えない。でも笑っているようだ。
とりとめのない会話がぶつぶつと続けられる。
結局、どちらが先に眠ったのか分からないが
なんとなく、これが愛おしいということか。
小さな体を抱きしめたら、
が微笑んだ気がした。