「シャーロック、離して頂戴」
「いやだ」
は小さい。ヒールを高く鳴らし、コートをひるがえしてロンドン中、時には国外を駆ける彼女には
英国の任務が秘められていると言うのに、その体はずいぶんと小さい。
今だって冬空の下、周りにはヤードがやががやと歩きまわっている中、ガゼルは僕のコートの中に入っている。というか
「ねえ。人が死んでるのよ」
「だから僕がわざわざ叩き起こされてやってきたんだ」
僕が彼女を捕まえている。
小さな公園。周りは通勤のために大勢の人が行ったり来たり。
砂場の上に、死体が綺麗に横たわり、周りには難解な図柄。
レオナルド・ダヴィンチを模したのか。いや、死体は女性だし円形に描かれた図面はもっと
・・・そう儀式などで使用されていた魔法陣のようなもの。だがしかし
「あいつらは何故現場を荒らすんだ」
「ねぇジョンは?」
「最早才能としか思えないな。」
「なんで私がここまで連れて来られてるの?私、報告書書かなきゃならないんだけど」
「足跡も痕跡も。わざと犯人を逃がしたいんだろうか」
「Sirから電話でもかかってきたらどうするのよ」
「アンダーソンだ。ああ、またドノヴァンに床を磨かせたな。
おっと、今夜は妻が帰ってくるのか。まずいな。きっとばれる」
「あ」
僕のコートの中からひょこと顔を出して現場の向こう側の方を見つめている。
黒い車が一台止まっていた。この朝の時間なら、別に奇妙な光景でもなんでもない。
だが、僕はその車に乗っている人間を良く知っていたし、彼女もそれが分かったらしい。
が僕から離れようと前へ足を踏み出したところで
「ちょ、」
僕はの腰をつかんで引き戻した。コートの中にすっぽり入れてしまう。
といっても僕はコートのポケットに手を突っ込んで彼女を捉えているのだから、引き戻したと言うより、閉じ込めたんだが。
しばらくすると僕の腕の中から着信音
「あ、ほら、電話、ね、シャーロック離して」
「嫌だ」
僕の意見を無視しては電話に出た。相手はどうせ、あの車の男だ。嫌な奴。
は黙って相手が喋るのを聞いて、それから黙って電話を切った。切ったと同時に道向こうの黒い車が走り出す。
僕はを愛している。
は僕を愛している。
僕が伝えるより、ずっとはっきり、愛してると囁いて、僕に温かいキスをくれる。
だが、彼女は自由奔放な猫のように、捕まえようとするとするりと逃げる。
首輪を用意してもいいが、彼女はそれを嫌う。
だったら
「」
「あーあ。もう。今日は午後からでいいって。ねえこれって私権乱用に近いと思うんだけど」
「」
だったら鳥籠を用意しよう。白い檻に黒いレースのカバーを用意して。足枷をつけて。
「お昼ごはん一緒に食べよう?」
「・・・」
「だから張り切って推理して頂戴、探偵さん」
僕の腕の中から白く細い指先が僕の頬に触れる。
が薄く唇を開いて
「続きは終わってからね」
首輪を用意しなくても、鳥籠を用意しなくても、足枷を用意しなくても、
僕の腕の中にいれば、きっと彼女は飛び立てない。
僕は赤い唇にがぶりと噛みついてやった。
オートクチュールで鳥籠を