」 食事が終わって、生徒たちが廊下への扉へ吸い込まれていく様を見ながら、
黙りこくっていたセブルスが口を開いた。
私は、スプーンに乗ったいちごのムースを口に含んで、咀嚼しながら彼の方を向く。

「後で、私の部屋へ来い」
「初日からずいぶん、積極的ね、セブルス」

セブルスは思いっきり眉間にしわを寄せてこちらを一瞥した後、立ち上がった

「別に今からでもいいんだけれど・・・」
「再会を喜んでいるところ申し訳ないですが、先生には、是非是非、
今日遅れた理由をお聞きしたいのですが。彼女をお借りしても?スネイプ先生」
「ええ。どうぞ」

しまった待って、一緒にいく!と立ち上がろうと思った時には時すでに遅し。
背筋を伸ばしたマクゴナガル先生に掴まり、そのまま先生の部屋へと連れて行かれた。
そこから小一時間、何故遅れたか、という議題について話すことになってしまった。

やっと解放された時には、消灯時間も過ぎて、城中の炎が消えて静かになっていた。
廊下に出ると真っ暗。

「お気をつけて、明日からよろしくお願いしますよ、先生。

貴方はもう生徒ではないのですからね、先生としての自覚をもって・・・」
「先生、私、学生時代もとってもいい子でしたよ」
「ええ、成績は申し分ありませんでしたが・・・・まぁいいです。おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい、マクゴナガル先生」

マクゴナガル先生は私が学生時代からちっとも変っていなかった。規律に厳しく、人にやさしく、母のような人である。
杖の先に小さく青白い光を灯して、廊下を歩く。
セブルスの研究室兼私室はスリザリン寮の近く、地下にある。
昼間、あれだけ明るく騒がしい城内だからこそ、これだけ静かだととても寂しく、そして怖い。
思わず小走りになりながら地下室を目指す。
螺旋階段を下りていくと、鉄の扉の下から小さな灯りが漏れていた。
セブルスはまだ仕事をしているようだ。
ノックを二回。ついで、中から低い声

「ただいま、セブルス」
「意外と早かったな

読んでいただろう生徒のレポートだろうか。羊皮紙を畳んで立ち上がる。
フラスコが乱雑に並んでいる奥にひっそりと忘れ去られたような扉があった。
彼の白い指が扉をそっと押していく。ついてこいということらしい。
見たことがないわけではない。彼の私室だ。

「話って何?」

セブルスは、棚からウィスキーをとりだしてグラスに分けた。
私は勝手知ったると真っ黒で肌触りのいいソファに腰掛ける。

「お前がここで働く上で注意を促さねばならん」
「どうして?」
「どう考えても面倒なことになるからだ」

セブルスは小難しそうな顔をしながらグラスを傾けた。
彼は座らないらしい。私の前に立ったまま、少しだけ、グラスの中に浮かぶ氷に目を落とした。
私も両手でグラスを傾ける。ああ、すっごく濃い。そしてずいぶん度数の高いお酒だ。

「仕事中に私の名前を呼ぶな」
「・・・生徒の前では気をつける」
「それ以外でも。演技や欺きは得意だろう」
「得意だけれど、きっと無理ね。今までずっとセブルスって言ってきたから

きっとこれからもセブルスって呼んじゃうと思う。時々、スネイプ教授って呼べる時もあるかもしれないけれど」
「・・・それから、私たちの関係を絶対に生徒に悟らせるな」
「秘密ってこと?うん、分かった。頑張る」
「絶対に」
「頑張るけど、それも無理かも。私すごくすごーくセブルス好きだから。大好きだから」

ウィスキーを舌の上で転がしながら彼の顔を見つめたけれど、
顔を赤くすることも狼狽することもなく、ただ不機嫌そうにこちらを見るだけだった。かわいくない

「でも、そうね、スネイプ教授の旧友だから、仲良しなのよ、くらいの演技はできるわ」

その答えはけして彼の思惑通りとはいかなかったようだけれど、私が言いだして、
譲らないことはよく知っているから、彼は黙ってグラスを飲み干す

「話は以上だ。部屋へ帰れ」
「駄目よ、要求だけじゃ。こちらからも条件を出すわ」
「・・・・・・・なんだ」

彼は一瞬、苦い顔をした。私が無理難題を言うと思っているのだ。
私もグラスを空にして机の上にグラスを置く。立ち上がっても彼の顔は見上げなければならない。

「二人だけのときは、必ず名前で呼んで」
・・」
「条件なんだから名字で呼ぶのやめて頂戴」
「・・・・・・・・・・・・・・・
「うん。うん、いい感じ、」

学生時代から、彼が私の名前を呼ぶことは少なかった。だからこそ、自然と口角が上がってしまう。
上機嫌になったから彼の頬にキスを落とす。
それから勝手に彼に抱きついて、背中に手を回す。彼は棒立ちのままだ。

「この程度で酔ったのか」
「私これからは、本能に従って生きて行くことにしたの。」
「昔からそうだった」
「そうだったかしら、じゃあそうね、ウィスキーのせいよ」
「この程度では酔わんだろう」
「あなたがいったのよ」

セブルスは教師みたいな顔をして私の顎に指先を伸ばして、唇をふさいだ。
『もう黙りなさい』ということらしい

「おやすみなさい、スネイプ教授、きっと明日からいい日になるわ」
「私にとっては、騒がしい日々になりそうだ」

彼は少し困ったように笑った。