それはどんなときに、どんな心境で起こったことかよく覚えていません。
しかし、彼女と話をしていた時でした。
故郷の話を。両親の話を。バルカンの歴史と文化について。
彼女が、聞き始めました。物が消えても、多くの人が覚えていれば、それは消えません
と。だから私は、話しはじめました。
私に与えられた部屋は、ずいぶんと殺風景でしたが
必要とされる物だけを置いているので私は気にいっています
そこに、大尉が加わることで、なんとなく、自分の部屋ではないような気がし始めました。
「大尉」
「はい」
「・・・・つまらなかったでしょう」
「いいえ、科学士官として、知っておきたかったですから」
「データは捜せばいくらでも出てきます」
「でも人の声を通して聞くのとは、違います」
「そういうものですか?」
「そういうものです」
彼女がふわりと笑うと、やはり、ここが自分の部屋なのかよくわからない感覚に陥ります。
それが、なにか、間違っているかのような。
「んっ・・」
そして、事は起こりました。
「す、みません!」
「へ・・・・あ・・・え・・と」
全く予想もしていなかった行動に、私自身が動いていました。
思わず、距離をとります。
唇を奪った女性に対して失礼ですが、このままでは自分が制御しきれないことも
鑑みての行動でした。忌々しい時期が訪れるには、まだ先だと思っていましたが。
白い肌が赤く色付いて、瞳を泳がす大尉
「だ、大丈夫です!」
「いえ、すみません・・・・自分でも何をしたか・・」
「ちゅ、うさ!」
「はい、なんでしょうか、」
小さな手で、彼女は私の襟元をひきました。
私が、小さな力に促されるようにかがめば
「ふ、」
大尉はもう一度、私の唇まで自分の唇を運びました。
二三度その行為を続けて、やっと彼女が離れました
「あの、中佐」
「・・は、はい」
「私の名前を、覚えておいて下さい、です」
「・・・・・・・・はい」
知っていますよ、と言ってやればよかったのですが
その時は冷静ではなかったので、了解の意でしか答えられませんでした。
彼女は真っ赤な顔をしたまま、私の部屋を退室していきました。
彼女はずいぶんと興味深い地球人です。
が笑うと、私の中に、あまり体験したことの内容か感情が流れ込みます。
それを彼女に伝えると、はずいぶんと照れた後、嬉しいですね、と笑いました。
おそらくこれが「愛おしい」ということなのでしょう
我々にも「愛」の観念はあります。しかし、彼女が笑うと、胸の辺りがふわりと
温かくなるのは、我々が感情をあらわにすることをよしとしないためでしょうか。
以上で、数日の間におこった自己の心境変化における原因解析を終わります。
私、個人の意見としては、解析してよかったと感じています。