旦那さまと連絡が取れなくなって3週間が立ちました。
もうすぐ、一カ月です。
何の依頼で、どこに行ったか、なんて知りません。お互いにプロですから。
探りを入れようと思えば、探りなんか入れられるけど、
でも。それをしたら駄目なような気がして。
私は、今日も一人分の食器を洗いました。
今日も、きっと一人であの広いベッドで眠るのでしょう。

真夜中に、ガタン、と派手な音がして神経がぴりりと危険信号を放ちました。
真っ暗闇の中で、銃を持って、足音と気配を消して、音が鳴った一階へ、
誰かがいる気配が、はっきりとします。まさかあのヘクター・ディクソンの家が見つかるなんて。
本人はいませんが、東の国では「女は家庭を守る」のが仕事らしいので、銃を片手にゆっくりと階段を降ります。
その『誰か』はヘクターさんのお気にいりのソファに腰掛けてなにやらしています。
鼻をくすぐるのは鉄さびの香り。相手は負傷しているようです。

「・・・誰ですか」

駆け寄って頭に銃口を突き付けます。
無謀と笑うでしょうか。私たち夫婦は無謀なことが大好きです

「ッチ・・・・なにやってる、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・懐かしい声です。

「・・・・へ、くたーさん・・?」

がちゃん、と銃を手から落としてしまいました。
暗闇の中ではあまりよく見えません
近づいて、手を伸ばします

「お前、ちゃんと俺かどうか確認してから銃離せ」
「ヘクターさんです」
「分かんないだろうが。」
「血の匂いがします。怪我してますか」
「してねぇよ。」
「嘘ですね。救急箱持ってきます!」

すくっと立ちあがって電気をつけようと振り返ろうとしたところを
ヘクターさんが腕をつかんで引っ張ったものだから、私はそのまま彼の胸の中へダイブしてしまいました。

「ヘクターさん!傷が!」
「あ?黙ってろ」

がぶ、
食べられたかと思いました。既に暗闇に慣れた瞳ははっきりと彼を捉えていましたが
突然の事で何もできませんでした。血のにおいと火薬のにおいをまとった彼に
私の唇は食べられてしまいました。

「ふぅんっ・・・んんっ・・へくた、さんっ・・・だめですっ」
「何がダメなんだ、何が。こっちは溜まってんだよ」
「そんなの知りませんよ!傷が開きます!」
「傷なんかない」
「痛っ!」

ガタンと大きな音がしてソファから二人して転げ落ちました。
ヘクターさんはお構いなしに私から酸素を奪うようにまた唇に噛みつきました

「んっ」
「もっと色気ある寝巻着ろ。短パンとキャミソールって」
「ひゃあっ」

キャミソールの下から入ってきた手のひらに体が大きく反応してしまいました。
まるで、そんなの、まるで

「なぁ、お前も欲しんだろ、

悪魔のような声で、悪魔のようなささやきを耳元で。
最悪です。この旦那様最悪です!

「な、ながされません!ながされませんよ!手当をしなきゃならないんです!」
「はいはい」
「や!聞いて下さいよ!!!」
「きいてる」
「ひぅっ」

本当に聞いているのでしょうか。
寄せられた彼の唇が、私の耳たぶを、くわえたようです。

「・・・・声に弱いのか」
「・・も、やめてください・・・・」
「あ?」

声が段々とよわよわしくなっていっているのは、自分でも分かっています。
理性が崩れていく音が、耳元で。
旦那様は足やらお腹やら、その、胸やらにキスマークを残すのに夢中になっているようで
その行為につられて、口から飛び出る言葉は、最早コントロールのきかない、声ばかりです

「んっ・・やぁっ・・・ふっ・・・・んくっ・・・へくた・・さんっ・・・っ!!!!やぁっ!!!!」

体の中心に突然、電流が走りました。
暗闇の中で彼は意地悪な笑みを浮かべています。
思わず上がった足を彼はさらに持ち上げました

「濡れてる。期待してんだろ」
「してませんっ!!!」
「そうか?」
「っぁ!」

ニヤニヤ笑いながら子供のように首をかしげて
指が一本から二本へ。中をぐるぐるとかき混ぜるように。
でも、本当に触って欲しいところは触れてくれなくて腰が、浮くのが分かりました。
最早、本能ではどうしようもないようです

「腰浮いてる。結婚当初はこんなじゃなかったんだけどな」
「うるさいですっ・・・・ふあっ・・・」
「水音、すごいな」

ちゅぱ、と確かに音が聞こえました。
広い部屋で、リビングで、何をやっているのでしょうか。