【お帰りなさいませ、様。】
「ただいま・・・いたっ・・・叔父様は?」
【トニー様は只今、外出中です。それからリビングにお客様が。
トニー様はそのまま置いておいて危険はないとおっしゃっていましたが、
あまりリビングに入るのはオススメいたしません。】
「ハルクじゃなかったら何とかなるよ・・ところでジャービス。」
【はい。なんでしょうか。】
「救急箱って何処にある?」
【きゅうきゅうばこ・・ですか。】
「救急箱。」
【・・・きっと倉庫に・・いえ、違います。地下の研究室の方にあります】
「ううん・・そっか・・」
ずきずき痛む左足。
ヒールはいてたらぐきってやな音がして、パンストの上から見てみたら案の定うっすら赤くなていた。
エレベーターの中でパンストとヒールは脱いで(だってほとんど家だし)裸足で帰って来たけれど、
この家の何処に救急箱があるか分からないし、湿布が中に入ってるのかもよくわからない。
絆創膏は売るほどあるんだけれど・・・叔父様がしょっちゅう傷作るから。
「とりあえず冷やすかー」
【どなたかに連絡しましょうか?】
「いや・・どうせ叔父様帰ってくるの夕方でしょ?それまで冷やすからいいよー」
【かしこまりました】
がちゃ、とリビングに入ると
「・・・・」
「・・・・・・・・・・」
みたことない人がソファに座ってた。
黒髪、ロン毛。男の人。じろりとこちらを見て、黙っている。
ので私も黙って小さなハンドタオルを濡らして絞ってから冷凍庫を漁る。
確かケーキ買ってきた時の保冷剤があるはず・・・・あったあった。
あの人がジャービスが言ってたお客さんか。
アベンジャーズの何かなのかな。知ってるって言ったってバナー博士とスティーブぐらいしか知らないし、
3人ぐらいいるらしいけど、会ったことがないのでよくわからない。
ソファに座って冷やそうと思ったら、男の人が座ってるソファ以外は雑誌と毛布でぐっちゃぐちゃだった。
帰ってきたら掃除させなくちゃ。
「あの。」
「・・・・・・なんだ」
「ちょっと寄ってもらえます?」
「何故」
「ソファ空いてないから」
「私が移動しなくてはいけない理由にはならない。私は「移動しなくていいですから端に寄って」
「・・・・・・・」
なんだか長い文句が続きそうだったのでたたみかけたら案外すぐに黙って広いソファの端へと寄った。
大体このソファ5人は座れるんだから。
真ん中にふんぞり返らなくたっていいじゃない
「っ・・めたっ・・・いた・・」
ぴと、ってタオルを足に当てる。やっぱりねじっちゃったみたい。
ついてないな。明日から何履いて大学行けばいいのよ。
「・・・・・」
「貴方お名前は?」
不思議そうにこちらを見ていたから、とりあえず話しかけてみる。
話しかけられるとは思ってなかったのが、ぱちり、と目を見開いてから
少し笑った。なんだか笑い方が気持ち悪いわ。この人
「アスガルドの王になるべき存在だ」
「それが名前なの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前に名前を教えなければならない理由がない」
「ここは私の叔父の家で、このソファは叔父が働いて・・・・働いて?まぁ買ったもので、
貴方はお客様だと聞いていたけれど本当にお客様だったら誰かがここにいるはずなのに誰もいなくて
貴方だけ残されてる状況を考えると無理やり叔父様がここに置いて行ったってことでしょう?
なら貴方が客人というより荷物、ってことじゃない?
大体アスガルドってどこなのよ。何の話よ。地球上にそんな国はないわ。痛い!」
「!」
足を少し動かしちゃってずきんと痛みが走った。
酷くなってない?叫んだら目の前の王様になりたい人がびくりと肩を揺らしてこちらを見る。
「ロキ・・」
「私はよ。よろしくね、ロキさん」
「・・・・・・・・」
空いてる方の手を差し出したけれど彼は一瞥しただけだった。
「なんでここにいるの?」
「兄上が・・」
「お兄さんがいるの?」
「・・・・・・・・兄上が天界の穴に落ちて、それに引きずられて落ちた。」
「天界?貴方地球の人じゃないのね」
「違う。」
「ごめん、怒った?そうなの。まぁヒーローがあんなにいるわけだし、超能力者とかもいそうだし、」
「神だ」
「神様がいたっていいか。で、そのお兄さんは?」
「何処かに落ちた。NYの何処かに」
【付け加えますと、トニー様はソー様を探しに行かれました】
「・・・・・なんだか神様にしてはおっちょこちょいね。」
「兄上がそうなのだ」
「そうなのですか」
スーパーヒーローしかり、秘密スパイ組織しかり、秘密諜報機関しかり。
なんでもありっちゃなんでもありなんだから神様(?)がいてもまぁいいか。
「それはどうしたんだ。ゴルゴノプスにでも襲われたか」
「え?なん・・・ごる?え?いや、あの普通にヒールで歩いててぐきって・・」
「間抜けだな。」
「うっわ、今の顔!今の顔すごいむかつく!!!!!神様だったらなんとかしてよ!」
「なんで私が!」
「痛いのよ!!」
「しらなっ・・」
「なんだ。何もできないんだ」
「・・・・そんなことはない!!!」
彼はぐわっと私の足首を引きあげて(声にならない悲鳴があがったけれど)
白くて大きな手で足首を包んだ。なんだかほかほかしてきたような気がする。
「なにしてるの・・・」
「治してるんだ。面倒だな。この程度で痛みを感じるなんて」
「神様はそういうことないの?」
「ない」
「なのに穴に落ちたの?」
「兄上がだ」
「でも引きずられちゃったんでしょ?」
「あんなの持ち上げられるわけがないだろう」
「どんなのか知らないけどね」
それから叔父様が帰ってくるまで、アスガルドとやらの話をひたすらしてくれた。
私にとって、それは関係ない話しで、それは童話のようなもので。
だって神話の世界でしょう、おとぎ話と同じようなもの。
でもロキさんは話しているうちに、楽しそうに声色を変えたり、姿を変えたり。
この歳で童話を聞いて楽しむなんてありえないなんて思っていたけれどそれは間違いだったみたい
それから彼が包んでくれた足首の痛みは、いつの間にか綺麗に消えていた。