「後で部屋に来てくれるか」
「え?あ、いいよ」

ブリッジで目的の放置された別の艦隊を探しながら
画面を見ていたら、カーンからえらく真面目そうな顔でそう言われた。
というか、彼はいつも表情が変わらない。
どうせ、安定地帯に入れば、目的の場所まで何もすることもない。
彼は、それだけ言うと自分の持ち場へと戻って行った。
私の見える場所には、元彼の部下だった超人たちと、私のクルー、つまり
地球人が交互に持ち場についている。平和で、いいな・・なんて、そんなことをぼんやり思った。

「カーン?きたよー」

廊下から外付けされたマイクに向かって離せば、返事の前に自動ドアが開いた。
中へ入ると、彼の姿は見当たらない、と思ったら

「っ!」

ぐい、と引っ張られて、壁に派手に押しつけられた。
は?と顔を上げれば、彼がやっぱり真面目な顔で私を見降ろしている。
何も、雰囲気も、またそう言った前触れも無く、突然、唇を奪われた。
壁に押し付けられ、上へひっぱられて足元は覚束無い。
それでも私より随分と身長が高い彼は離してくれず、脳は酸素を欲していた

「んぅっ・・・・んっ、は、あぅっ・・・・はな、んん・・・・んく・・・・」

ふわふわとし始めて、足力も入らない。もうダメだと体の力が抜けてしまい、
ずるり、としゃがみそうになったのを彼が腰を支えたことにより免れる。
大きく息を吸って、クラクラする感覚が戻るのを待たずに

ぱぁん、

乾いた音が彼の部屋に響いた
叩かれてもその表情は変わらず、まっすぐ私を見つめている

「っ、は・・・・なに、を、するの!」
「・・・・・・・・」
「答えなさい、艦長命令よ!ジョン・ハリソン!」
「・・・・・・・・・・・本来、我々が持っている、感情とは、戦闘本能だけだ。
それに、伴う冷静さや判断力は置いておいたとしても」
「きゃっ!降ろしなさい!ハリソン!」
「君が、こうさせたんだ。君が私を変えたんだ。」
「っ!」

生活感なんて全くないこの部屋に唯一存在感を出していたベッドに落とされる。
乱暴な行動で、とっさに動く前に彼が私を見下ろしていた。
声は単調、表情は無。恐ろしいほどに、冷静だ。
女を押さえつけている男の顔とは思えない。

「そもそも、君は我々を、信用しすぎではないか?テロの犯人だ。
人類に恨みを持つ。それなのに君はガンも持たず、呼ばれたから来たとここへ訪れた」
「ジョン・・・・」
、本名で、偽りの名前でなく、本名で、」
「・・・・か、カーン」

呟いてやると彼は目を閉じた。
力なくうなだれる彼は、かつて、その名を愛しそうに呼んだ誰かを思い出しているのか

「欲しい、君が。とてつもなく。愛してる、
「んっ!」
「恨めばいい、憎めばいい。力で勝てないことを、このまま蹂躙されることを。」
「やめ、」
「ただ、一度だけ、私にくれないか。目をつぶって、君が思い描く人物を描け。」
「っ!カーン!」

大きな声を出せば、彼はやっと私に目を合わせた。
目を合わせなかったのは、多少なりとも恐怖や不安を抱えていたから?
いや、彼らにそんな感情は無いはずだ。
それでも、目を合わそうとしなかった彼は何を恐れていたのだろうか。
拒否か、嫌悪か。
私にだって、愛した人がいた。
私だって、私だって、
愛していたし、愛されたかった人がいた。
それはでも全て過去で、あくまでも気まぐれに政府が
計画したプロジェクトに巻き込まれた私は、地球人といえど、やはり、
立場は「化物」扱いが多かった。誰も、大切になんか、してくれなかった。

「なぜ、私に思い描く人がいると思うの?」
「君は私とは違う」
「政府が作った人形がする恋なんて、長続きしないのよ」
「・・・・・・・・」
「大切に、してくれる?あなたなら、大切に」
「・・・・必ず」
「ほんと?忘れてしまったりどこかへ消えたり、しない?」
「約束しよう」
「あと、カーン、ホントに好きなら、窒息させちゃ、だめなのよ」
「・・・・・・今までの女はどうだったか、死んだものはいなかったが、
同じ女が来ることはなかったな。どうせお互い一晩の関係だ」
「・・・・わたしたちも?」
「・・・・いや、わたし達は」
「じゃぁ、やさしくキスして、」

化物同士が、本当の愛を求めているなんて、滑稽な話だ。
私の頬を伝う涙の理由を、誰か教えてくれないだろうか。