「初めまして、えーっと、です。
今からジョン・ハリソン中佐が貴方達に色々伝えるべきことを伝えます。
出来たら最後まで聞いてあげてね。私と、貴方達の命のために。
それから出来たら訳分からない女はここにいるべきじゃないって分かってるんだけど
それはそれで上が納得しなかったので、私は隅に座ってます。いないものと思ってもらって
構わないわ。信用できる人からの話の方が、皆さん理解しやすいでしょう?というわけで、えと、静かにしてるので、どうぞ」

と彼女は口早にそう言うと本当にプラスチック製の小さな椅子を持って部屋の角へ移動した。
部屋は、先ほど二人で話したあの、毒ガスの部屋。
私はまず、クルーたちに何を言うべきか迷った。己の感情からか、何を言う、
頭の中で整理するも、言葉にならない。私がすべきこと、彼らを率いる、私が。
私は、まずこの部屋の仕組みから話した。反抗的な態度があればあの女が死ぬと言うことを
彼らはざっと彼女を見る。彼女は、にこりと笑って手を振った。
そして我々も、あの場所へ戻されることを。
それから我々の立場があの時、未来を信じて眠ったころから何も変わっていないこと
戦犯扱いということ
私がやってきたこと、そしてこれからやるべきことを伝えた。
何か、言いたそうな顔がずらりと並んだが、言えることは何もない。
誰かがもし反抗的な意思を表示すれば、我々は冷凍睡眠に戻る。
冷たく、誰とも触れられない、あの狭い空間へ。
快諾、とまではいかなかったが、クルーたちは各自、それなりに理解したようだった。

「じゃあ、健康診断から行こうか。部屋はね、申し訳ないんだけど、ここの基地内にある部屋に
それぞれ住んでもらうことになるの」
「檻だろ」
「・・まぁね、監視つき、いや、室内のカメラは外させたわ。私が。心配なら皆さん優秀だし
調べてもらっていいよ。うん。あ、ちなみに私も基地内に住んでるから何かあれば、まあ。何かないと思うけど」
「カメラを外させてよかったのか?君は我々を少し過信しすぎだろう」
「そうね、駄目だったら皆と一緒に殺されちゃうもん、だから仲間、と言うと嫌かもしれないけれど
私は貴方達を信用することにしたから、出来たら信用してほしいね。立場としては微妙だけれど。」
「・・・・・・」
「何か異論は・・・・・・ない、みたいね、じゃあ健康診断から。あと何が欲しい?コーヒーとか?
300年の間に色々変わってるよ・・・・って驚いた、誰も表情変わらないのね。ハリソンみたいなのばっかり?
ちょっとやめてよ、これから宇宙に出るって言うのにさ」

不信や不安の空気ががらりと変わった。誰かが彼女の言葉に少し笑う。
相変わらず、彼女はおかしな女だった。



ガラスの向こうで、クルーがそれぞれ診断を受けているのを私とは眺めていた。
『失礼な扱いしないでよ。』と言いつけたおかげで、私のクルー・・・いや、これからどうなるのか
分からないが、私の家族が酷い扱いを受けている様子はなかった。

「ずいぶんと、恐れられているようだ」
「・・・・・・え?何が?」
「君だ。私から見れば数秒かからず殺せそうだが。医者や数人の上官が君を見る目には恐怖の色が」
「そうねぇ・・・・・・そうよね、貴方達の事情ばっかり私が知ってて貴方達は私の事情を知らないのって
少しおかしな話よね。えっと、何から話そうかしら。」

彼女は小さく考えた後、覚悟を決めたように顔を上げる。

「私が18歳のころにね、ある実験が秘密裏に計画されたの。人間は脳の10%しか使ってないから
残りの90%を目覚めさせることができたら、所謂「超能力」が目覚めるって話あるじゃない?
あんなの人間が宇宙へ出ると言えば月、なんて時代から言われていたことだけれど、それが
本当にできるかもしれないってね。でも失敗する勇気はない、だから数人の被験者を使って
実験を開始。私は見事、成功。他の被験者と接触する機会はなかったから、
他に何人成功者がでたのか知らないのだけど
・・・・・簡単にいえばPK。つまり念力ね、物を浮かせるってやつ。あれの桁違いの力が発揮できたわけよ」

「・・・・・・いつの時代も、欲深い奴が考えることは一緒だな」
「まぁ、そうよね。両親は私を研究施設にお金で売って、そのあと私の細胞から、一人のクローンを製作。
そっちはESPの能力が発揮。政府や研究施設としては万歳よ。だけど、ちょっと無理しすぎたのね、
私は人よ、扱いが・・・・なんて話しなくたって貴方は分かるだろうけれど、一度、暴走して。
研究施設を荒れ地に変えちゃったらしいの。
あんまり覚えてないんだけど、発見された時、生きていた人は一人もいなくて
私は瓦礫の上に座っていたそうよ、そう、私も大量殺人者・・・・・
政府は秘密裏だった計画に立てついて、研究者自体、研究自体、もみ消したのね。残ったのは厄介な産物。
連邦士官学校に入って、卒業して・・・外に出れば彼らは私に地位と、新しい名前と、妹を用意して黙らせた。
そうそう、そこでね初めて自分のクローンなんか見たのよ。私は何も知らなかったんだけど・・
唯一、2年生き残ったクローンを手渡されて。子どもなんか、到底考えられないくらい私だって子供だったのに
今年で4歳かな・・・自分の細胞から生まれた作られた子が、こんなに愛おしいなんて思ってなかった。
私はその子のために、ここにいる。貴方は、あのガラスの向こうのクルーのためにここにいて。
でも、それだけじゃあもったいないから、せっかく一度きりの人生よ、楽しまなくちゃ。」

遠くを見る彼女の瞳は絶望も見受けられるようなそんな瞳をしていたのに、口調ばかりは明るかった。

「・・・・・・・・殺したことについて、罪悪感はないのか」
「どうして?だって彼らは殺されてもいいような事をしたのよ。
貴方、マーカス殺したことに、何か罪悪感を感じているの?」

まるで当たり前のような口ぶり。
表情、何も、そこに嘘のような兆候はない。
自然と自分の口角が上がるのを感じる。

「・・・・・・聞かれてはまずい会話だ。」
「ええ。だから秘密にしておいてちょうだい。」

ばちん!派手な音がして我々を追っていたカメラが煙を上げた。
彼女は、私を見て、いたずらっ子のような表情を浮かべた。

「だから何かと殺せる機会があれば、私の事処分したいのよ」

冷たい声は、誰もいない廊下に響く