小さな部屋に通された。真っ白で窓ひとつない部屋。
箱、と言った方が正しいだろうか
「さて何から喋ろうか。」
「・・・・」
「えーっとね、んー・・・・そうね、軍がね、貴方をモルモットにしようとしたのは、まあ本当の話なのね。
貴方の血は何にも勝る薬になるし、今となっては遺伝子操作で人を作るのは禁止されてるしね。
でも。既に完成されたものなら、というずるがしこい考えで。でもね。それじゃ惜しいから。
貴方は優秀だし、貴方のクルーは貴方をしたっていたのだから。割と頑張って止めたのよ?
それで結果、貴方と貴方のクルーと私の数人のクルーを連れて宇宙へ出ることになったのよ。簡潔にいえば。
宇宙での雑用をこなすために。宇宙でのゴミ回収とか。そんなのよ。政府だってお金が湧き続けるわけじゃないし
科学技術を盗まれるのが怖いから、使える部品はリサイクルしたいし、使えなくたって処理しておきたいけど
なかなかそんな雑用に回せる人員も希望者もいないからさ。だから、そこをついて、説得して貴方を出してきたの。
貴方がやったことが許されたわけじゃないし、現在進行形で許されている訳じゃない。」
「実に愚かだな。宇宙に出て、君たちを全員、殺し、そのままさらなる復讐を遂げるのも、不可能じゃない」
「ええ。だから私たちが乗る船はいつだって爆撃してもいいってことになりそうね。
実際、この部屋だって貴方がおかしな行動をすれば
すぐに毒ガスが放出されることになってるの。貴方はきっと生き残るわ。
私は2分持つかしら。まぁその辺りはそうなったら考えるけれど。
貴方、何分耐えられる?何時間?きっと反抗的な行動に出た貴方を殺しかけて、またあの狭い冷凍室へ逆戻りよ、
貴方のクルーが温かいコーヒーを飲む機会はもう与えられないの」
「・・・・君も共に?」
「そのぐらいの犠牲、上は問わないわ。」
「相変わらず。愚かすぎて、恐ろしい生物だな」
「ええ。そうね。すごくね。でもそのくらい。大きな賭けに出ているの。起きて十分でこんなこと言うのは酷だろうけど
答えてほしいわ。先に行っておくと貴方がNOと言ってもこの部屋は毒ガスが放出されることになっているから」
「・・ずいぶんと君は安く見られているようだな。大佐殿」
「ええ。まぁ。私も、貴方と同じような立場なのよ。まぁいいの。私の話は。どうする?」
「わたしは」
自分の希望など、もう一つもなかった。
希望と言えば人類を消しさることぐらいだろうか。でももうそれも大半をやり遂げてやっと眠れると思ったのに。
叩き起こされてこれだ。あまりにも、勝手だ。
思い浮かぶのはクルーの顔。ずいぶんとぼやけてしまった。
私は、続きの言葉を発するために、もう一度深く息を吸いこんだ
++++
ハッチが開き、懐かしい顔が目覚めていく。
あるものは歩けず倒れ、あるものは涙を流し、あるものは、私に近寄ろうとする。
私の家族が、触れる位置で、語れる距離で、戻ってきた。
「きゃぷてん、」
何百年ぶりに、その声を聞いただろうか。
ただ、みな、同じ表情をしている。起こされたのは、けして好意的な目的でないらしいこと。
実際に、見えないが、医療器具に隠れて、銃を突きつける気配が、あとを絶たないこと。
「きゃぷてん、なにが、あった、んですか」
遠い昔、副船長をしていた男が力の入らない足を引きずってやってきた。
きっと、駆け寄りたかったことだろう。
「ああ・・・・・・・よかった・・・・・」
「きゃぷてん、」
彼女は、ずいぶんと幸せそうな顔で遠くから我々の再会を眺めていた。
全員が戦闘態勢に入るまで待って、ここで反乱を起してもなんら問題はなかったし、
きっと誰もが疑問になんか思わなかっただろう。
だが、何故だか彼女が自分ことのように嬉しそうにこちらを見ているのを見て、
それを命令するのは、まだ先だと、なんとなく、そう思った。