太陽光の届かぬ場所でのサルベージ作業は人間には困難な作業だそうだ。
何せ彼らの身体能力は我々にくらべてはるかに劣る。

計器を頼りに闇の中へと飛び出しても、
方向感覚が全くつかめずに自らもまた宇宙空間の塵になるという。

命綱の必要ない宇宙服の改良が進んでも、
それを使う人間の進化ははるか昔に終わっているというのはなんとも皮肉だ。

「……かなり変形しているな。磁場の影響か?」
サルベージする予定の艦の損傷が激しく、どうやら数名しか中に入れそうにない。
しかも、我々は皆体格がよく、不向きのようだ。先ず侵入経路の確保から考えねば。

「キャプテン、私がやります!」
、」

声の方を見ると、大柄なクルーの中から手を伸ばし、
ぴょんぴょんと飛び跳ねている が見えた。
7フィートもある男性陣の中に紛れているからか、まるで子供のようだ。

「キミはメディック(救護員/衛生兵)だ」
「でも、私もクルーの一員ですよ、キャプテン!」
「キミに任せる位なら私が行く」
「ブリッジに居ないキャプテンなんてダメです!私なら小さいし…」
「しかし、」
「労力が少なくて済みます!私が!」

彼女がこんなに強情になったことは今までなかった。
いつも我々の後ろをついて回り、庇護されているだけの存在だった彼女が…。

「30分だ」

「そっ、それって……」
「それ以上は待たない」
「…はいっ、ありがとうございます!」

ピッタリと身体のラインに沿った宇宙服はエナメルのような光沢があり、
ライムブルーの線がやけに映える。
この線が宇宙空間の中で発光し、反射材の役目を果たす。

付属のヘルメットを被り、駆けていく後姿は本当に小さく頼りない。

「……通信の準備を」

指示を出し、モニターに写る彼女の視界を眺めるが、
本当に何も映らない。仕方なく赤外線を見てみるが、
何もかも超低温のこの区域では無駄な作業でしかないようだ。

「キャプテン、 です。は、入り込めました!」

の声がブリッジに響き、クルーのどよめきがそれを覆う。
皆、同じように不安だったのかと少しおかしく思う。

「えーと、ブリッジに行って航海日誌等を回収、自爆装置を起動…ですよね!」
「……ああ。技術を盗まれぬようにとのお達しだ」
「スイッチ押すだけですよね」
「危険なようなら自爆装置の軌道は必要ない」
「え、でも…」
「キミが帰還した後、こちらで爆撃すればいい」

小さなライトを照らしながら航海日誌の入ったディスクを探す様子が
モニターに映し出され、皆もっと右だ左だと思いながらそれを眺めているようだ。
私はモニターに表示されているタイマーが段々とゼロに近づいているのを見て
指先でデスクをタップする。

「Mission accomplished!帰還します!」

皆、ぞろぞろとブリッジから移動し始め、私は1人モニターに映る彼女の視界を眺める。
見慣れた戦艦が見え、無事帰還できるルートを見つけたのだと確認し、安堵した。
モニターを切り替えて外の様子を映せば、
闇の中からライムグリーンに発光する の姿。まるで流星のようだ。

遠くから聞こえる歓声。クルー達が彼女を褒め称えているのだ。

この分では が私の前でミッション成功の報告をするのは少し遅くなるだろう。
その時は……よくやったと誉めてやろう。

帰って来てくれてよかった、キミを誇りに思う。そう、伝えよう