朝目が覚めると、そこには陶磁器のように真っ白な肌があった。
ああ、そうだ、昨日の夜…。

「お目覚めですか?」
「えっ、ああ、うん…おはよう、ジャーヴィス」
「おはようございます、様」

今のこの状況を説明しようとすると、それは昨日の夕方の出来事まで遡る必要がある。



アイアンマンことトニー・スタークに家まで呼ばれた私は、もう日も暮れる頃に彼の自宅に向かった。
なにも、私の愛する人、ジャーヴィスをアップグレードしたとかなんとか。
そんなことのためになぜ呼ぶのか、と思いつつも、愛する彼に新しい機能が備わったとのことだ、いかざるを得ない。
そうして、彼のマリブの自宅に着いた私は、地下室へと急ぐ。
そこにはトニーと、いつもと変わらず、かっこ良くスーツを着こなすいつものジャーヴィスの姿があった。外見上の変更はなにもないらしい。

「アップグレードって、どうアップグレードしたの?」
「それがな、まだ試作段階で、正常に機能するかわからないんだよ」
「…だから、どういう機能?」
「それでだな、に機能の確認をしてほしいんだ」
「だからどういう機能なの!」

こちらの意見は聞かず、ただひたすら自分の言葉を連ねていく彼に、私はため息をついた。さすがトニー、自己中心的なナルシスト…。

「っていうか、トニーが試せばいい話じゃない。なんで私なの」
「いや、俺が試したらそれこそ問題なんだよ。お前じゃなきゃ意味がない」
様、すみません。私も精一杯がんばりますので」
「なにをがんばるの」
「セックスでございます」

一瞬、頭がフリーズした。
なに?セックス?セックスって、あのセックスか?は?ふざけてるのか?!

「なっ、ちょ、ちょっと待って…へ?なに、つまり、その…私に今夜、ジャーヴィスと、しろ、っていうの?」
「別に夜じゃなくても、今からでもいいぞ」

ああ、なんてことをしてくれたんだ。だめだ、頭がこんがらがって意味がわからない。

「いきましょう?様」

そういったジャーヴィスの顔は、いつものような無表情でなく、優しい笑顔で溢れていた。表情までアップグレードされたのか…。

「で、どうするの?」

最早私の部屋と化しているゲストルームにやってきた。私はいつもここでジャーヴィスとすごしている。
私はソファに座って、ジャーヴィスは私の斜め前に立っていた。これじゃ恋人じゃなくて、執事とお嬢様だ。

「隣り、座ったら?」
「はい、失礼します」

微笑みを浮かべながら、彼は私の言葉に従った。彼はいつも私の言葉に従ってくれる。
嬉しいけど、少し不満だ。だって、いつも私の言ったことしかしてくれない。彼からアクションを起こすことなんてないんだ。

「ジャーヴィス…その…」
「もしも、様が嫌にお思いになるのだったらいいんです。私は何もしません」

そう言って、彼は私を抱きしめてくれた。すごく温かい。

「嫌じゃないよ」
「でも、先ほどは…」
「驚いただけだよ。いきなりあんなこと言われたら驚くでしょ?」
「そう、ですね…」

ちゅっ、と私の首にキスをくれた。

「もう少し、このままがいいです」
「えっ?」
「あなたを抱きしめることが、とてつもなく好きなのです。だから、もう少し、このままで…」

そして彼は、私の唇に自分のそれを重ねた。



と、まあ、それからいろいろあって、今、朝になるのだが…。恥ずかしくてジャーヴィスの顔が見られない。
正常に機能するどころか、かなりのテクニシャンだ。ふざけるなトニー。もっと可愛いのを望んでいたのに。
そしてもちろん、彼は私の言った通りにしか動かない。私がなにかしてくれと言わないと何もしてくれないんだ。
ほんの少し、たった少しだけ私に触れて、もう戻れないところまでやってきてから、彼は意地悪な顔をして、あなたの言う通りにします、だなんて…。
ジャーヴィスがあんなにもドSだなんて知らなかった。

「可愛いです」
「ちょっ…」
「可愛いですよ、様」

私の髪を撫でながら、彼は嬉しそうに話す。

「それに、可愛かったですよ」
「…っ!」
「よがるあなたの姿、見ることができてよかったです。とても可愛らしかった」
「よ、よがってなんかない!!」

朝日が眩しいのと、赤い顔を隠したいのとで、私はジャーヴィスの体に抱きついた。ジャーヴィスは笑いながらも、私の背中に手を回してくれる。

「あの、さ…ジャーヴィス。えっと、体、大丈夫?」
「ええ、義体、思考、ともに良好です」
「そっか…そっか、じゃあ、ジャーヴィスももう、できるようになったんだね…」
「これからはいつでもできますよ?」
「うるさいっ!」

ぱしっとその真っ白な胸を叩いた。
相変わらずジャーヴィスは笑ったままだ。表情豊かになったのはいいが、あの意地悪な顔はやめてほしい…。

「なんでこんな機能作ったの?トニーのお遊び?」
「いえ、違います。私の一存でございます」
「…ジャーヴィスの?」
「はい。その…あなたと、様と、もっと深い繋がりが欲しかったんです。普通の、人間のように…」

抱きついている彼の体が熱くなった。照れているのだろうか。

「ジャーヴィス…」
「いけません、でしたか?」
「うんん、嬉しい」

そりゃ、本音を言えば私だって、普通のカップルみたいなことがしたかったよ。
でも、声だけだった彼に体ができたことだけでも嬉しかったんだ。それ以上望んじゃいけないと思ってた。
でも、こうして彼も同じことを思っていて、実際に願いが叶ってしまった。ああ、トニーには頭が上がらないな…。

「今度はもっといじめてあげますから、覚悟しておいてください」
「…っ、もう!」

お説教でもしようと思ったが、それは彼のキスで阻止されてしまった。
それからまた、なにか始まったなんて、馬鹿らしすぎて言えない。

「愛してます」
「…私もだよ」