貨物室と言うのは不思議な空間だ。重要な空間であるにもかかわらず、航海中は殆ど誰も入ってこない。
積み荷を入れる時と下ろす時だけしか利用しないものなのだから当然の話ではあるが。

「ここを塒にするとは考えたな」

の髪を撫でつけるように触れば、彼女はいつものように笑う。

彼女はこの艦の主任機関士だ。もちろん、我々は一般的な人間のように誰かと自分たちの欠点をカバーし合ったりしなくとも良い。
誰がどの役職に着こうと、訓練を積んだ人間以上の働きが出来るのだ。肩書など形式的なものではあるがな。

「お褒めに預かり光栄です」
「随分他人行儀な言い方だな」
「まだ周囲の点検を済ませていませんから」
「ああ、なるほど」

私達は物心ついた頃から付かず離れず生きてきた。それも当然だ。
私たちはまるで堵殺される順番を待つ豚のように同じ空間に詰め込まれ、サウンダー(小規模な豚の群のこと)を形成するしかなかったからな。
だから結束が固い。皆が皆互いを愛している。だが、そんな中でも私にとって彼女は少し特別の様だ。

「聞かれるとまずいのか?」
「少し、恥ずかしいです」

とこの“遊び”をすることを覚えたのはいつだったか。

の鼻先に私の鼻先を付ける。小さい頃はほぼ同じだった身長も、いつの間にか変わってしまった。
だから今は私が少し屈まないといけないし、彼女も少し背伸びをしないといけない。
一体何が面白いのか。理屈は分からないが、の顔が近くに有って、彼女の吐息が掛かるとおかしくて今にも笑ってしまいそうだ。

「笑ったらダメですよ」
「キミこそ。ほら、もう肩が震えてるぞ」

お互いに両手を合わせ、少しずつずらして指を絡めていくと、流れる血も同じ速さで巡るような感覚になる。
目をしっかりと閉じて引き寄せ合い、2人にだけ聞こえるような音でハミングするとうっとりしてしまう。

、」
「何ですか?」
「私の負けでいい」

堪え性がないな。負けるのはいつも私だ。



の小さな唇に私の唇を重ねれば、我慢していた気持ちが込み上げてきて一気に破裂する。
彼女は恥ずかしいと言ったが、私は誰かが見ていたとしても構わないなと思って笑うのだった。