「ねぇ、ジョン」

「ん?何?」



今日もロンドンは相変わらずの曇り空で、太陽の光は薄い。
珍しくフラットにはとジョンの2人だけで、はソファに座って本を読みながら、
ジョンはラップトップで作業をして各々に時間を過ごしていた。

「ジョンはあの話知ってる?ギリシャ神話のイカロスの話」
「あー…名前は聞いた事あるけど、どんな話だったっけ?」
「すごく簡単に言うと、イカロスが蝋で作った羽を使って空を飛ぶんだけど、
太陽に近付きすぎて蝋が溶けて墜落死しちゃう話」
「ああ、言われたら思い出したよ。その話がどうかしたの?」

はジョンから目を反らして、窓の外に広がる灰色の空を見上げた。
ジョンもに倣って空を見上げる。
気が滅入りそうになる色。
次に太陽が顔を見せるのは、いつなのだろう。
ふ、との口から小さな溜め息が漏れた。

「話の中ではイカロスが太陽に近付きすぎて蝋が溶けちゃうんだけど、
もしかしたら太陽がイカロスに近付いてしまったんじゃないかと思って。
空を飛んでいるイカロスの傍に行きたくて、でも自分の熱で溶かして死なせてしまったんじゃないかなって」

そう言ったの横顔は寂しそうで、何かを心配しているようだった。
それは、見えない愛の終わりを怖がっているのだろうか。


「ん?」
「ヘリオトロープっていう花、知ってる?」
「聞いたことない花だけど…」
「ヘリオトロープは太陽に向かうって意味なんだよ。紫の花なんだけど、
太陽の動きに合わせて花が向きを変えるからこの名が付いたらしい」
「太陽に、向かう…」

僕の言葉を噛み締めるように、が言葉を繰り返して呟いた。

「イカロスのように溶かされても、墜ちて命を落としても、僕はヘリオトロープのように太陽に向かうよ。
の傍にいたいし、もっとを愛していたいから。
だから、終わりとか別れを怖がらないでほしいんだ」
「何で、分かったの?」
「いつも見てるからさ。は僕の太陽なんだから」

少しチープだったかと笑うと、は頬を染めて笑顔でそれを否定した。
ずっと近くにいたい、でも怖い。
だけれど、それを凌ぐ程の熱量を持った愛しさがある。
溶けて墜ちてしまっても、気持ちの重さで動けなくなって花になってしまっても、あなたとなら喜んで。