「・・・・ど、どうも・・・・?」
「・・・・・・・どうも?こ、んにちは?」
「警察の、あの、レストレードだ。よろしく、えーっと」
「あっ、
・です」
「シャーロック・ホームズはいるか?」
シャーロックの引っ越しも終わって、3日目。
ドアを開けたのは、男性。
私はと言えば、スウェットにキャミソールで髪の毛を上げて、掃除をしてたもんだから
あっけに取られてちょっと固まってしまった
「あっ、え、と、はい!シャーロックですか?います・・・・けど・・なにかしたんですか・・・?」
「あ、いやいや、違う。ちょっと捜査に協力してもらおうと・・・」
「まだ、寝てて・・あ、どうぞ、」
「お、どうも。」
ぎこちない会話をしながら、レストレード警部をいつまでもドアのところで立たせておくのは
忍びなかったので、とりあえず部屋の中へ招き入れた。
「ごめんなさい。掃除中で・・・ごちゃごちゃしてますけど」
「いや・・構わない・・あの、シャーロックを・・」
「いま起こしてきます!」
ところであの警部さんは、シャーロックがドラゴンっていうことを知っているんだろうか・・?
とりあえずシャーリーを起さない限り、話は進まない。
寝室のドアをノックしても、中から反応なし。
そっとドアを開けてみると、ベッドの中央で、何か丸くて小さなふくらみが出来ていた。
中へ入って後ろ手で扉を閉める。だってもし、ドラゴンだったら・・・・そして彼が何も知らないとしたら
「・・・・・シャーリー?」
「・・・・・・」
シーツをめくってみると、ベッドの中心に丸いくぼみができていて
そこには小さな青いドラゴンが丸まっていた。
私にとっては、人間の姿よりもこっちの方が見なれている。
「シャーリー・・?どうしたの?」
呼びかけても飛びついて来ない。
指先でそっと頭をなでると、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。
「あのね、レストレードって方が、貴方を探して来たんだけど・・・・」
ぼふっなんて間抜けな音がして、私の手を頬にあてたまま、
あまり見なれてない方のシャーリーがシーツにくるまって
目の前に現れた
「じけん、か・・」
「シャーロック・・なんかぼんやりしてない?」
「・・・・・あたまいたい・・・」
「・・・・風邪、ぶり返した?」
「そんなことない・・・じけん・・・事件があれば・・ぼくは・・」
ふらふらと立ちあがってごんっ、と派手にドアに激突しながらシャーロックは出て行った。
シーツ姿のままにするわけにいかず、悪いと思いながらもクローゼットをあける
スラックスと淡い紫のシャツをひっぱりだしてきて、ベッドの上に放り投げた。
「・・・・いってくる」
「着替えて頂戴・・・シャーロック、本当に大丈夫?」
「だいじょうぶだ」
「ほんと?」
「だいじょうぶだから、でていってくれ、
」
「う、うん・・・ねぇ、今日ジョンいないよ?」
「だいじょうぶだ。君には僕が下着を着るところを見る趣味があるのか」
あ、やっぱりパンツはいてないのか。
とか思いつつ扉を閉めるとレストレード警部が複雑そうな顔をして立っていた。
「あの、君は、あれとつきあってたり」
「び、微妙です」
「あ、そうか。うん・・・・そうか・・」
「言いたいことは分かります。シャーロックのお兄さんから世話をするように言われています」
「・・・・・・へ、へぇ・・英国政府の・・・」
「そうですよ」
「・・大変だな・・」
「です。」
ばん!とドアを開けて出てきたシャーロックはさっきより幾分、シャンとしていた。
はたから見れば、いつもの彼だ。
コートをつかんで出て行こうとしたのを、捕まえて、マフラーを巻いてやる。
外はまだ寒い。
「先にタクシーで行ってる。早く来いよ、レストレード!」
がんがんと派手に音を立てながら階段を下りていく彼を呆れた顔で見送って
レストレード警部とまた目があった
「まぁ、うん。よかったと思うよ、うん。」
「あはは、そうですか」
「・・・・ああ。」
「・・・・・・・・・・・あの彼、なんだか調子悪そうで」
「そうか?」
「現場には入らないので、ついていっていいですか?」
「それは、許可しかねるな・・・・」
「ちなみに私は英国政府に籍を置いています」
「現場には入らないでくれよ」
交渉は上手く行った。とても。
私は急いで二階へ駆けあがって着替え、コートをつかんでレストレード警部の運転する車に乗り込んだ。
+++++
「つまらなかった!!!!!」
現場について10分後。
寒空の下、彼とレストレード警部が降りてくるのを待っていたら
わめきながらシャーリーが降りてきた。
と、後ろで困った顔でついてくるレストレード
「おい、シャーロック!!!殺人事件じゃないのに第三者が殺したってどういうことだよ!殺人事件だろそれ!」
「でも君たちには犯人はけして捕まえられないものだ!お得意の情報操作で自殺と流せ!
上はなにもいわないだろう!」
「今回で5回目だぞ?もう無理だ!事情を教えろ!」
「教えられるわけないだろう!!・・・・・
、帰るぞ!」
「・・あ、う、うん」
半ばシャーロックに引きずられる形で大通りを目指した私たちだけど
レストレードが私をひっぱったから、足を止めることになった
「タクシーなんか、使わず、貯金しろよ、送ってやるから、事情話すんだシャーロック」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「シャーロック?」
本当に、気分が悪そうだ。もし体調を崩してこんな大勢の中でドラゴンになったら・・・・
考えるとぞっとする。イギリス政府あげての秘密事項だし
「そ、そうしようよ!ね、送ってもらおう?」
「事情は喋れない」
「分かってるよ!ほら、でもシャーロック体調悪いんでしょ?」
「わるくない」
ぐいぐいひっぱって無理やり車に乗せる。
大人しく従った様子を見ると、やはり調子は悪いようだ。
車内では無言。レストレードがいくつか質問したけれどどれにも答える気なんかないらしい。
221bが見えてきて、車を降りる。シャーロックの体が揺らいだ。気がした。
レストレードが怒鳴りながらそれを追いかける。
シャーロックは無視して家の中へ入っていく。
彼がここまで言わないと言うことは、きっとレストレードは何も知らない。
部屋を開けて、レストレードがシャーロックの腕をつかんで、振り返って、
消えた。
「・・・・・は?」
「・・・・・・・・・・あー・・・・・」
やってしまった、というところだろうか。
ぱたん、と後ろ手でドアを閉めてついでに鍵を締める。
なんとなく、レストレードの背中がはねたような気がした。
「しゃーろっく・・・は?」
「服を、めくってみてください。」
まるで消え去ったかのように残された衣類をそっと持ち上げると
青色のドラゴンがうずくまっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・な、」
「さて。じゃあどうぞソファへ。レストレード警部」
「い、いやいや。いやいやいやいや」
「グレッグ、どうぞ、ソファへ」
「な、んで名前・・!?」
「まぁ、まぁ。逃げないでくださいね、貴方はいま、イギリス政府最大の秘密を目にしましたから」
振り向こうとした彼を押さえて、ソファへ座らせる。
なんとなく、息が苦しそうなシャーリーを抱き上げて、
シャーロックのベッドの上に寝かせる。
スマートフォンを取り出して、ある番号へ。
「あ、あの、
・・・・」
電話は1コールで繋がった。
電話の相手に事情を説明しながらにこりと笑うと
レストレードの額に、汗が噴き出した。
サングラスに黒のスーツの男が彼を連行しに来るまで、3分ほどだろうか。