どんな話の流れだったとか、どちらからキスし出したとか、全く覚えてない。
なんだったか。好き、とか愛してる、とか言ったけ。覚えてないや。
それでも流れ込むように私のフラットへ帰ってきて、そのまま玄関に倒れて、窒息しそうになるぐらいキスを交わした
土砂降りの雨で体は濡れていたから、火照る体が気持ちいい。どうしてこうなったっけ。
確か大学の帰り道で何か言い争いになったはず。そうそう。
私がいいなって思ってた男の人の事をシャーロックが馬鹿にしたのが始まりだったかも。
事実がどうであれ、判断するのは私でしょうと言うといつものマシンガンみたいなスピードで論理攻め。
馬鹿みたいと立ちあがったところで引きとめられて。
でも彼も引きとめた理由が分かっていなかったし、私も立ち止った理由が分からなかった。
大雨が降ってきて、相手の声も聞こえなくて、
それからどうして私たちはお互いの服をはぎ取りながら玄関で転がってるのかしら

「いたっ・・んっ!ちょっと、は、待って、しゃーろ、あっ」
「は・・・?っ・・何か言ったか?」
「ここっ、げんかんっ・・!」
「知ってる、何か問題が?」

息を切らせて、彼の顔をつかんで、目を合わせると真顔のシャーロック。
ここで言うのは問題だろうけど、彼、多分、私が初めてだと思う。初めのキスの酷いこと。唇切ったかと思ったもの。

「シャーロックはじめて?」
「最低限の知識はある。」
「ちょっと安心。」
「それに君たちが見るような馬鹿げた映画ではこう言うんじゃないか?」
「ん?」
「『愛が全てを解決してくれる』と」
「・・・あは、そうね、まぁ。うん、で?私たちに愛はあるのかしら?」
「しらん!」

そこまで言って彼はキャミソール姿の私を担ぎあげて部屋へずんずん入って行く。
寝室は右よ右、なんていいながら着いた先で背中から落とされてちょっと怖かったり。
でも何故かすごく楽しくて声をだして笑っていた。

「あはははっ・・もう、やめてよ、安いベッドの底が抜けるわ」
「そうか」

シャーロックは興味なさそうに私を見降ろす。
最早、ボタンなんていくつかとんじゃってくしゃくしゃになったシャツの残ったボタンを手を伸ばして
丁寧に一つずつ外していくと少しばかり彼の表情が固まった。

「シャーロック?」
「・・・・・・・」

目を丸くしてるシャーロックを緩く押すと今度は彼がベッドに転がる。
上からシャツを引っ張って上半身を立たせて、薄い切れそうな唇に噛みついてやった。
でもさっきよりずっとずっとやさしくて丁寧なキスを。
こうしてやるのよ、と教えるために。
離れると、彼はやっぱり固まっていたが、先手を打たれたのが悔しかったのか、
キャミソールの下へ大きな手が入り込もうか迷っているようだ

「・・・リードしてあげよっか?」
「・・・・・・・いい」
「ほんと?」
「・・・・」
「だまってろ」

小声でひそひそ話。背中でホックが外れる音がしたことよりも、
冷たくなった肌にシャーロックの体温が広がる方が気持ち良くて、そっちに神経が持っていかれて。
彼の膝の上に座っていつも、冷たいと感じるくらいの彼の体温が、すごくすごく熱くて、
唇が体をなぞって行くのに、普通にするときよりずっと感じてる自分がいて、
こんな不道徳的な、こんな行き当たりばったりの行為に、背徳感でも抱いているのかしら、それとも、
なんて考えていたら、胸の先端をくすぐられてそんな哲学的な考えは吹っ飛んだ。

「んっ・・!」

身長差がずいぶんとあるから、行き場のない腕は彼の頭を抱え込むことで解消されて、
シャーロックの表情は全く見えなくなった。ぴちゃ、と水音がぞくぞくと私を追い詰める。

、」
「ひあっ・・・ん、ふっ・・・なにっ・・・」

足の付け根辺りに熱を感じて、そう言ったことに全く興味なさそうな彼でも
少しは雰囲気に呑まれて感じているようだった。嬉しい、なんて思ってしまった辺り、やはり私はシャーロックが好きなんだろうか。

「腰を、上げろ」
「んっ」

力の入らない足を絶たせて膝立ちしてるとかちゃかちゃとベルトをはずす音がして緊張する。
愛のない行為なんて今まで一度もなかったから、やはりこう言う雰囲気に呑まれているのかしら。

「しゃーろっく・・・っ?」

ぴたり、とさっきよりもずっと熱い熱を感じて腰を引く。
けれどそれは彼の腕が力を込めたせいで叶わなかった。

「ちょ、ちょっとまってっ」
「っ・・なぜ?」

私を見上げるシャーロック。ほんとに分からないの?これだから!と喉まで出かかった言葉を押しこめる。
彼のプライドを傷つけることはできるだけ言わないでおこう。

「なんでっ・・・って・・・だから、あの、なら、してないから、・・・あの・・」

まさかベッドの上でこんなこと言うはめになるなんて思ってなかった。

「スキンはつけたが。」
「そういうことじゃなくて・・・う・・・あの・・・は、いんないから・・・・も・・いい・・・!!!!」
「何を怒ってるんだ!」
「恥ずかしくて死にそうなの!!!やめて!もう!!」

全く分からないと言った顔のシャーロック。仕方ないから、シャーロックを壁際まで追いつめて、
彼から見えないように体を出来るだけ密着させる。
恥ずかしくて本当に顔から火が出そうだし、泣きそうだけど、このまま行為に走って、激痛なんて無理。

「み、ないでっ!」

恥ずかしくて涙がたまった瞳でそう言うとシャーロックは眼を丸くして何をするのかなんなのか、
といった顔で私を見つめる。仕方なく、体の中心に指を這わす

「ひゃっ・・・・ううう・・・・・・・・んっ・・・ふっ・・・」
「あの」
「なにもいわないでっ・・・・」

しばらくして聞こえてきた水音と私の反応で何をしてるのか予想がついたのか、彼は慌て始めた。
やめてほしい、そういう態度とられる方がこっちは困る。

、あの、」
「いいからぁっ・・・」
「ぼく、がする。」
「ひゃぁんっ!!」

長い指が突然、中まで入って来たせいで、自分の声とは思いたくない声が出た。
泣きたい。というか泣いている

「んっ・・・やっ・・・しゃ、ろっ・・・まって・・あっ・・」
「わるかった、すまない、
「い、からっ・・」

ちゅ、とこめかみにキスされて、そんな顔もできるのか、
なんて脳内では冷静だけど、声と体はコントロールできなくなっていた。

「も、いいか?」
「ふっ・・ん・・いい、よ。だいじょうぶ、」

当てられた熱は相変わらず熱を持っている。
ぐ、と入口にあたって、唇が震える。いつだってこの瞬間が、一番緊張するものだ。
中を無理やりこじ開けながら圧迫する熱は、奥へ奥へと進んでいる

「ふあっ・・んんっ・・・」
、」

とうとう、ぺたん、と彼の膝の上へ座り込んだ。
完全に中に入って、私は酸欠と窮屈さから意識が飛びそうだった。

っ・・・・」
「きゃっ」

ぐい、と足を持たれて転がされると天井と彼の顔。
ゆるゆると律動が始まって、彼の汗がぱたり、と頬に当たった。
唇を合わせて、抱きついて、ひっかいて、不道徳な行為は始まったばかり。

++++++

体の上に何かがのしかかっていて、苦しくなって目が覚めると眠っているシャーロックが目の前に飛び込んできた。
一瞬、吃驚して距離を取りかけたけれど、冷静になると、そっか、とかつぶやいちゃったり。
まだ外は大雨。脱ぎ散らかった洗濯物を集めながらシャワーを頭からかぶる。
そして、ちょっと後悔。だってお互いに一言も好きなんて言ってないのよ、
それなのに、こんなことして、ああ、どうしよ・・なんて。

洗濯機に彼の上質なシャツ(これ手洗いじゃなくていいのかしら)とスラックスを放りこんで
(下着は入れなかった。だって全裸で歩かれると流石に困る)スイッチを押す。
今日は雨だから、フラットの地下にある乾燥器使っても、
今日中には乾かないだろうし、体がだるくてその気にはなれない。

キャミソールと下着を新しくして、寝室へ戻ろうとすると廊下に彼のショルダーバック。
きっと授業とは全く関係のない哲学書やら医学書やらが詰め込んであるはずだ。
重いバックをひきづって寝室を開けると、まだ彼は眠っている。寝顔を見ていると

「・・・・・・だめ・・・好き・・・」

こちらが照れるような気持ちにさせられて、私は思考を停止させてシーツの中へもぐりこんだ。
次の日、10件近くのお兄さんからの電話に出たシャーロックが「女の家だ」と言って
不機嫌そうにスマートフォンの電源を切ったところから、
「その言い方は気に食わない」という乙女心を解く説教をすることになるが、
今は子供みたいに眠る彼を眺めながら私も眠ることにする