パソコンに向かってブログを書いているとハドソン夫人が軽い足取りでやってきた。
シャーロックはもう昼も近いのに部屋にこもりっきりだ。

「ジョン、かわいらしいお客さんが来たんだけど・・」
「え、依頼人ですか?」
「いいえーシャーロックの知り合いらしいわよー」

ハドソン夫人に促されるように女の子が一人入ってきた。
小さな体躯とアジア系の幼い雰囲気。中学生くらいかな?

「こんにちは。事件の依頼かな??」

目線を合わせて優しく問いかけるとふわりと柔らかい笑みを浮かべて笑った。
可愛いな、なんて思いつつつられて笑う
あとは任せたわよーなんていいながらハドソン夫人は一階へ。

「えっと、こんにちは・・・あのシャーロックいますか?」

シャーロック、だって。
あいつも有名になったもんだ。ファーストネームで呼ばれるなんて。
シャーロックのファンだろうか。最近、あいつに向けて(時々僕に向けても)プレゼントを持ってくる依頼人もいる。

「あー・・シャーロック、まだ眠ってるんだ。ちょっと待っててくれるかな?」
「あっ、いいです。あの部屋・・・入ってもいいですか?」

彼女がおずおずと指差す先にはシャーロックの部屋。
流石に女の子を通すわけにはいかないし・・

「・・・・・・・えっとー」
「・・あ、彼から何も聞いてないんですね、えと・・その私・・」

彼女が口を開きかけて

「きゃっ」

ずるずるとシーツお化けが部屋から出てきて、小さな体躯にのしかかった。

「わっ!あの!ちょっとシャーロック!!!」
「シャーロック!!!おいこら!やめろって!!!」
「やっと帰ってきたのか!!」
「ただいま、シャーロック・・!重いよ、ちょっと!」

気付いた時には彼女はシーツの中に呑みこまれていた。
シャーロックは彼女を抱きしめて

「おい!!!」
「んぅっ・・!」

彼女にキスした。しかもあいさつ程度の軽い奴じゃなくてがっつり。唇に。
これはもう犯罪だ!私立探偵事務所で犯罪が起きた!!!!!

「シャーロック!!!!それはまずい!!!おい!!!!」
「おい探偵いる・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい・・これは・・立派な犯罪だ」
「グレッグ・・・」

タイミング悪過ぎだろう・・・
僕は思わず頭を抱えた。抱きしめてる程度だったらまだ誤魔化しが効いたのに
女の子の方はシャーロックの腕の中で固まってるし
シャーロックは機嫌悪そうに眉間にしわ寄せるし(彼女を離す気はないらしい)

「なんだレストレード。事件か」
「事件だったけどこっちでも事件起こってるからまずそっちからな」
「何も事件なんか起こってない」
「俺の目にはなぁ、裸にシーツの男が学生ぐらいの女性を抱きしめてるっていう
犯罪が目の前で行われているのが見える」
「ほとんど間違ってるが、見た目としては合ってる」

ため息をつくレストレード。
立ちすくむ僕。
僕ら三人の顔を見てきょとんとする彼女。

「もう!離してシャーロック」
「いやだ!せっかく帰ってきたんだ!!」
「でも私まだもう一人の同居人さんとほとんど挨拶してないし!」
「「もう一人の同居人??」」

思わず僕とグレッグの声が重なった。
うごうごと何とかしてシャーロックの腕から脱出した彼女は
スカートのすそを直して僕らに向かって微笑んだ。

です。えっと、もともとここに住んでて、ちょっと日本の方に帰ってました・・えっと、
交換留学生なので、れっきとした21歳です・・なので、あの犯罪?とかじゃないです・・」
「やっぱりほとんど間違ってただろう」
「え、ええええええ21・・・?!?!?!!!ほんとに!!?」
「東洋の人間怖いな・・・・」
「ど、同居って・・」
「あのシャーロックと同棲してて、ちょっと単位の関係で半年くらい日本に帰ってて・・・
あ、私ちゃんとえっとワトソンさん?の事、聞いてましたよ!ワトソンさんが嫌じゃなかったらこれから よろしくお願いしたいんですが・・・」
「あっ、ごめん!えっとジョン・ワトソンです」
「はい、知ってます!」

にこりと笑う彼女はどうしても成人した女性には見えない。
身長の低さも手伝ってやはり幼さが抜けないのだ。

「えっと、そちらの方は・・・」
「レストレードだ・・刑事・・なんだ・・」
「よろしくお願いします。レストレードさん。」

小さなかわいい女の子と僕らの奇妙な共同生活が始まった。