「シャーロックさん!ご飯食べてください!!!」
「シャーロックさん!部屋片付けなきゃ駄目ですよ!!!」
「シャーロックさん!人間らしい生活を営んでください!!!」
僕の彼女が僕らのフラットにやってきて、一時間が経った。
一時間、僕はノートパソコンの前に座っていた。ずっと。
とは夕方から食事に出かける約束をしてて、
早めに行ってもいいと聞かれてNoと言う必要もなく
やってきたら一時間。ずっとシャーロック世話を焼いていた。
初めは僕の向かいに座って彼女がいれてくれたコーヒーを三人で飲みながら
シャーロックは相変わらずソファに座り、僕らは他愛もない話をして
でもそれが楽しくてってのんびりした正しいカップルの時間を過ごしていたのに。
シャーロックが珍しく何か食べるとキッチンに行き、豆の缶を出したところでが怒った。
それからはもう甲斐甲斐しく世話を焼く。彼女の医者の本能が働いてるのか。
ちょっとイライラしてきたところでそろそろ出る時間になって、
何も進んでいないまっさらなブログを閉じてジャケットをつかむ
「、そろそろ行こうか」
「あ、はい!」
花が綻ぶような笑顔がすごく可愛い。
いままで付き合ってたのが割と色っぽい子が多かったので
こう言う幼い系は新鮮だ。
そもそもそういう話から付き合うことになったんだっけ。
がキッチンへマグカップを置きに行く間にシャーロックに小声で話掛けておく
「今日は遅くなるからな」
「朝帰りになる、の間違いだろう」
鼻で笑うこいつがむかつく。
が、今はどうでもいい。後、数分でここから出れる。
と思った矢先、電話の音、瞳が輝くシャーロック、キョトンとした、そして嫌な予感でいっぱいな僕。
「レストレードだ!!!!!!事件だ!!!!!!!」
「そうかよかったなシャーロック、いこう。早く。僕らはデートだ、君は事件。皆ハッピーだ」
「え、あ、はい!?」
「何言ってるんだ、君も来るんだジョン!当たり前だろう!!!!」
「何度デートの邪魔をしたら気が済むんだ!!!!」
「まだデートに出てないだろう!!!!!!!」
僕らの間でおろおろするは可愛い。
早く二人きりになりたいんだ僕は!
「あああのワトソンせんs・・・・・ジョン、予約ならずらしても大丈夫だと思いますし、あの」
驚いたがシャーロックの味方をした!
あとそのワトソン先生は後でベッドの上で言って欲しい!
にこーっと嫌な笑い方をするシャーロック。
「ほら、君の姫君だってそういってる!、君にしてはいい意見だ!」
「ありがとうございます??」
後は誰もが予想できる通り。
タクシーを呼んで、何故か三人で死体を見に行って
僕は検死したらさっさとレストランへ向かいたかったので
遺体を見て、検死して、遺体を運んでもらっている間、
ずっとシャーロックは部屋の中をぐるぐる歩いていた。
「何してるんだ」
「あるはずの物を探してる」
「ピンクの携帯とか言うなよ」
「面白いな!」
「思ってない癖に」
「ワトソン先生」
「ん?」
「あの遺体、指が変色してました。第一関節から上だけ」
「・・・・・・・そうだった?」
「それだ!!!!それの原因を探してるんだ!!!!」
はこう見えても僕の勤めている病院の医者だ。
僕らはずっとお互いを「先生」と呼び合っていたし
彼女は僕よりずいぶん年下なのも合って、その癖が抜けないらしい。
そんなことより変色だって?
いつもなら見落とさないはずだけど
「毒だ!毒!体の末端に証拠が出てる!!!!!」
+++++
この言葉のせいで僕らはレストランになんか行けず
気がつけば夜は深まっていた。
事件が解決した頃には大抵のレストランは閉まっていて、
いつもの中華料理を三人で食べていた。
「じゃ、僕はを送って帰るから先に帰ってろよ」
「帰って来なくてもいい」
「いいから黙れシャーロック」
「おやすみなさい、シャーロックさん」
シャーロックはの顔をじっと見つめた後
無言でくるりと方向を変えてベーカー街へと歩き出した。
「今日は、本当にごめん。」
「いえいえ、それなりに楽しかったですよ。」
にこにこと笑う。
何が楽しかったって言うんだろうか。
死体と死体にはしゃぐ男と僕と彼女。
楽しいことなんてなかった。
彼女のアパートが見えてきた。暗い夜道を二人で手をつないで歩く。
「シャーロックさんは面白いですねー」
「基本的に嫌われてるけどね」
「私は好きですよー」
心のどこかがざわりと揺れる。
思わず動いていた足が止まってしまった。
「ジョン・・っ・・・んんっ!!!!」
気がつけばアパートの影に押しつけて彼女の唇を奪ってた。
抵抗とも言えないような小さな抵抗は段々と力を失っていって
彼女を解放した時には一人で立っているのも難しいくらいになっていた。
「わと、そんせんせ・・・・?」
「今日は送って帰ろうと思ってたけどやめる。」
「へ・・?」
「ベッドの上で君が誰のものなのか理解させなきゃならないからね」
「っ・・・そ、そういう意味で言ったんじゃないですよ!」
「分かってるよ、ごめんね、これは僕のわがままだ」
月明かりに照らされた彼女の頬に優しくキスしてあげる。
泣きそうな顔が扇情的だ。
絶対に、優しくしてあげようと、大人の余裕を見せようと
この顔を見て決意したのに。
「でも、いちばんすきなの、は、せんせい、ですから」
この言葉で全てが崩れ去った。
幼さが残る彼女に振り回されるのも案外楽しいものかもしれない。
そんなことを思いながら彼女を支えてアパートの階段を上がる。
ああ、そうだ。玄関で押し倒さないように気をつけないと。
それでも上がる口角は、止められない。