一週間、着替えを持ち込んでオフィスで缶詰が決定された。
気のいい仲間も部下たちもピリピリするぐらいの大仕事。
壁に設置された6つのパネルを眺めて、ウィルくんと連絡取って
書類を書いて申請をだして銃を持って
トラックで突っ込んで、と、大忙しだった。
誰も(味方には)怪我がなかったのが幸いだけど。
7日間きっちりソファで毎日2時間の睡眠。
居眠りなんて許されない状況下のせいで逆にハイテンションにもなりつつ。

8日目の朝、そんな生活からやっと解放された。
仲間も部下ももうお互いに離すこともなく、
それぞれ有給を取ってしばらくこの部署は休みに入る。
最後にこの書類を彼に届けるだけ。
義理の兄で、歩く英国政府って名前の癖に歩くのが大嫌いで
人間じゃなくてドラゴンの大事な大事な私の上司。

「さぁー・・・報告書です・・・・」

ノックもせずにドアを開けたのはドアを開けてから気付いた。
けれどSirは何も言わずにこちらを見てにこりと嘘くさく笑う。

「御苦労だったね、
「はい・・・」
「これでまた国を危機から救ってくれた」
「そこまでの大事になる前に処理するのがうちの部署の仕事です」
「さぁ。、今日は車を出そう。」
「ほんとですか・・?」
「ああ、勿論。私の大事な賢い部下だ。それにアレのお気に入りだ。帰ってゆっくり休みなさい」

この胡散臭い男を信じた時点で馬鹿だった。
言われるままに車に乗せられて、そっとヒールを脱いで
背中を背もたれに預けると脱力しちゃって
肌触りのいい、ほんのり温かいシートに身をゆだねると
ここで寝ちゃ、後々、階段を上るのが辛いわ、なんて思っても
もう、抵抗することはできなかった。

+++++++

目が覚めると知らない場所にいた。
ふかふかのベッド、ふわふわの枕、ふかふかのシーツ。
そしてきらきらの天井。
ここはどこだ。太陽の光がカーテンの隙間から差し込む。日は高いらしい。
知らない間に着替えてる。このネグリジェは一体どこから来たの?
一人にしては広いベッドから降りて、着替えようにも何もない。
たたんであったカーディガンに腕を通してカーテンを開ける。


「っ!!!!!!!!」

驚いて足がよろけてそのまま2,3歩後ろに下がってしまった。
窓いっぱいに、大きな、私の身長くらいある、目玉。
それがゆっくり瞬きする。

「目が覚められましたか、様」

驚いて思考が停止しているところにメイドさんが隣になっていた。
メイドがいる家?何処よここ!

「シャーロック様はこちらに来られるといつもあのように羽を伸ばされるので・・驚かれたでしょう?」

上品に笑う彼女。
待って、シャーロックって言った?
違う違う。私の知ってるシャーロックは手のひらより少し大きいくらいのドラゴンよ・・

「あ、あのここはどこなんでしょうか・・?」
「ホームズ家の別荘でございます。お着替えはこちらに。
朝食はお庭に用意させていただきます。今日は本当にいい天気なので」
「ほ、え、べっそ・・え?」
「マイクロフト様よりしばらくこちらで休養されるように。と」

あの英国政府、もう信じないから。
でもベッドの寝心地は良かった。
呆れてしまってニコニコ控え目に笑う上品なメイドさんの顔を見ていると
地響きみたいな音がして思わず振り返る。

「あらあら、シャーロック様はご機嫌ですね。」
「・・・・・・・一つ聞いてもいいですか?」
「なんなりと」
「貴方は・・・人間?」
「ふふ、さぁ、どうでしょうか」

私は考えるのをやめようと思った

++++

朝食を食べ終わって、文字通り羽を広げているシャーロックを眺める。
庭も景色も森も全く見えず、見えるのはゴツゴツした硬そうな青色の肌。
ここはロンドンかどうか聞くとまた曖昧に笑われたのでもう私は何も考えない。
とりあえず、言われた通り休養するんだ!
と思っていると何人かの使用人がホースを持って出てきた。
どうやらシャーロックに水をかけて水浴びさせるらしい。
近くの湖まで飛んでも(飛んでも、だって)良いらしいけど流石にこのサイズだとばれてしまうって。
せっかくなのでお手伝いさせてもらうことにして彼の背中に登る。
8人くらいで背中から水をかけて、デッキブラシでごしごしこする。
シャーロックは機嫌がいいらしく(私には何も分からないけれど)使用人の人たちは安堵していた。
人間でもめんどくさいんだもの。機嫌の悪いドラゴンなんて最悪なんだろうな。
大体の水浴びが終わって、さぁ、お昼寝でもしようかな、なんて思っていたら

「きゃっ!!」

足元の下にあって、動かないはずの大きな大きな背中が揺らいでそのまま地面に向かってまっさかさま。
ぎゅっと目をつぶって受身をとれるように背中を丸める。

っ!」

優しい腕が私の体を支えて



ぎゅうと抱きしめた。

「しゃー、り?」
!」

ぐりぐりとびしょぬれのブルネットが私の首筋に頭を押しつける。
びしょぬれの体に気休めのタオル。
何処に至ってこの人の服装は変わらないらしい

「シャーロック!やめっ、ちょ、濡れる!」
、僕は君が眠っている間、触れなかったんだ。夜だって別の部屋で寝た」
「だから何よ!」
「だから何だって?君は一週間も家に帰って来なかったんだぞ!」
「いや、それはだって仕事が」
「それに加えて1日と半分君は眠り続けたんだ!」
「それは・・」
「・・・・まずはバスルームに移動しよう」
「シャーロックは入らなくてよくない・・?」
「そうだな、でも君が倒れたら困る。」

いたずらっ子みたいな顔をしてにこりと笑い
バスタオルを手早く体に巻いて私を持ち上げる。

「シャーロック!ね、ちょっと聞いてよ!」
「僕はそろそろ褒められたっていいはずだ。なんてったって君の仕事場に押しかけなかったし」

唇が乱暴に私の唇を押さえつける

「・・・・・・・・・・やめられなくなるな。」
「寂しかったのは貴方だけ?」
「このままベッドに直行したくなかったら煽るのをやめてくれ!」
「はいはい。可愛いシャーリー、いい子ね」

ころころと表情を変えるドラゴンの頬にご褒美のキスを一つ。