誰よりものそばにいて
誰よりもの事を把握していて
誰よりもを支えているのは僕だ。
誰がどういったって、僕だ。

カーテンの隙間から差し込む朝日を背にの寝顔を見ながらそう思う。
恋人や家族の前でもそう見えない、この気の緩んだ彼女。
人がいる、というのと僕がいる、と言うのではやはり意識の違いがあるのだろう。

、朝だ。遅刻するぞ。」

声をかけて見るものの彼女はピクリともしない。

・・・今日は朝から現場に行くんだろう?」

少し大きめの声を出してみると彼女は僕の顔を見てしばらく止まり

「・・・・・・・・・・うるさ・・い」

枕の下へと頭を突っ込んだ。
10分したらもう一度声をかけよう。

僕は、の優秀なスマートフォンだ。



は殺人課の刑事だ。
レストレードの部下であり、今、頭角を現している期待の新人と言う奴だ。
観察力も僕には及ばないとしても十分なものを持っている。
マンションの一室で起こった殺人事件。
強盗ともとれるような荒らされた室内。
Keep outの前には見なれた女。

「おはよーございます」
「おはよう、
「おはよーサリー。被害者は?」
「今、アンダーソンが見てる」
「んー」

コーヒーを啜りながら現場をザクザクと歩いて行く
こけるぞ。僕もあとをついて行く。
ああ、。あいつと喋るな。脳が腐るぞ

「おはよーアンダーソン。」
「ああ、おはよう
「朝から御苦労さまー」

やめろ。話しかけるな

「全くだ。女だったらまだやる気も出たのに」
「あははーも−何言ってんの。死体じゃん」
「けど、あー。まぁこの遺体は・・・」
「どうしたの?」
「恐らく浮浪者だろうな。」
「浮浪者がこんな高級マンションの一室で死んでたわけ?」

近寄るな。喋るな。黙れ、触るな!!!!!!
考えたら分かるだろうその男はここの住人じゃない!!!!!!

、アンダーソン」
「あ、警部」
「おはようございます」
「酷いな。強盗か?」
「金品を盗んだ形跡はないそうです」
「遺体は?」
「死因は胸に一発。髪や歯の状態から見て浮浪者か。またはすごい風呂嫌いだったか。
服は高級ブランドの物ですが・・・」

レストレードとあの馬鹿が喋っている間には窓枠に近づいた。
窓を背にしたソファにそっと乗って背もたれに腰をおろし、窓を開ける。
それから僕を取り出してカメラ機能で遠くをズームした。
何がしたいんだ

「どうしたー
「んー・・・・銃で撃たれてるんですよね?」
「そうだな」
「んー」

それから彼女はぐるぐると室内を歩きまわった。
そして、絨毯の変化に気づく。
ここがあの馬鹿と彼女の違いだ。

「で、ここに犯人の物と思われる靴跡。」
「よく見つけたな・・・そんなの」
「絨毯の状態がいいから・・・警部のもついちゃってますよ。
型取ってみなきゃ分かりませんが・・これブーツですね。多分。犯人はここから被害者を撃った。
なんで向かいのビルから撃たなかったんですかね」
「どういうことだ?」

彼女はもう一度窓際に近づいて向かいのビルを指差した。
そうか。そうだ・・・そうか!やはり彼女は鋭い!!!

「私ならあそこから狙いますね。大きな窓を背にしたソファ。
一日のうち、一度はこのソファに腰掛けるでしょう?
窓の状態から見るとこの窓はよく開けられてたみたい。
ならあそこから撃ってしまえばおしまいじゃないですか。
なのにわざわざ室内で殺した。何故ですかね」
「・・・・・・・・・・・・・さぁ」

君たちは救いようのない馬鹿だ。
そんなの決まってる

「被害者に会う用事があった。銃を突きつけて何か喋らしたり、奪ったり。」
「で喋って殺された?」
「いや。喋らなかったじゃないかな・・・・でも世間的には死んでほしかった。」
「どういうことだ

「つまり、ここで亡くなったこの人は、その辺りで雇われた浮浪者で、
ここに連れて来られて、ここの本当の持ち主の服を着せられ殺された。本物は・・・」
「どこへいったんだ!」
「どこへ行ったんでしょう。でもこのブーツの持ち主に連れ去られた。世間的にこの一室の主は死にましたから」

「今すぐこの靴跡を取って解析させろ!それからこの部屋の持ち主の情報!遺体はラボへ!!」

バタバタと周りで人が動き出した。
は立ち上がって時間を確認する

「12時だ、
「帰って報告、書きまーす」
「おう。お疲れ」
「お疲れ様ですー」

ふらふらとゆっくりした足取りでエレベーターに乗り込んだ

ドアを閉めようとしたらアンダーソンがこちらに向かって走ってきた。

「あ、」
「わるい」
「いいよー」

密室で、と、あの馬鹿が、一緒。

「アンダーソンはまだしばらくここ?」
「あ、まぁそうかな。」
「ふーん。お疲れ様―」

早くつけ早くつけとパネルを見つめる。
3、2、1

電子音が鳴って、ドアがゆっくりと開く。

「あ、の!」
「ん?」
「今晩、飲みに行かないか?」
「・・・・・え、っと、」

まさかそんな。やめろ駄目だ!!!!!!!!
が答えようとした瞬間に

「っ!なんだ!?」
「吃驚した!いや、携帯携帯。え、あれ電話かかってきてる・・・あ、えっと、後でまた連絡して!」
「・・・あ、わかった・・お疲れ!」
「お疲れさまー」

勿論。かかってきた番号は非通知。
が仕事を終えるまで6時間しかない。
僕はその間にあの馬鹿を阻止することができるだろうか。
調子に乗るのもいい加減にした方がいい。

僕はの優秀なスマートフォンだからな!