ロキとそのお兄さんが帰ることになった。
あの後、叔父様がお兄さんを連れて帰って来たのだけれど
地球にいるついでに彼女に会いに行ってくると言って
NYを飛び出したもんだからそれを捕まえて叔父様が自家用ジェットを出して、ってなって
またしばらくロキと私はNYでお留守番。その間にいろんな事を聞いた。
叔父様の不眠症の原因を作ったのはこの男らしい。
「私は罪人だ」
「そうなの?」
「牢獄にいたんだ。」
「じゃあなんで・・・え?」
「兄上が様子を見に来て」
「時空が歪んで・・?」
「一緒に穴に落ちた。」
「・・・・ああ・・・」
あの金髪の人好き勝手するタイプだとは思ってたけど。
「でもそんなに悪い人には見えないなー」
「は私が殺した人数を知らないからだ」
「知ってるよ。ニュースになってたよ。それは最低だと思う。それは神様がするべきことじゃないと思う。
でも、貴方の本心が何処にあるかが問題なんじゃないのかな。勿論、償えない罪を犯したのは確かだけれど」
「・・・酷いな。傷ついた」
「嘘つき」
「ああ。私は嘘つきだ」
お留守番の間に、ちょっぴり、彼と仲良くなれた。
気がしてるだけかもしれない。彼は嘘つきで、傲慢で、わがままだ。
でもしばらく騙されてあげようと思う。
私は、利用されていることに気付けない馬鹿じゃない
それから二日後、疲れすぎて無言になった叔父様と
(ある意味、叔父様を黙らせることができるこの金髪のでかいのすごい)
金髪のでかいのがほくほく顔で帰ってきた。
「帰るぞロキ!!!」
「そもそも私はここに来たかったわけではない」
「さっさと帰れ馬鹿兄弟・・・」
「えーっと、じゃぁ?元気でね」
と私は握手を求めた。
金髪の方は背骨が折れんばかりに抱きしめてくれて
ロキは馬鹿にした笑い方しながら、
「じゃあ、きっともう会うことはないだろうが」
「可能性は無限大よ」
「何が言いたいんだ」
「何が起こるか分からないってこと」
じゃあね、と付け加えようとしたその時。
全てがスローモーションで動いた。
叔父様が私の名前を叫んで、振り向こうとして、金髪が空を見上げて
スタークタワーが揺れて、雷が、目が、私は衝撃と音に驚いてぎゅうと目をつぶった。
誰かが私の体を支えてくれていたけれど、金髪の方だったか、ロキだったかは定かではない。
目を開けると目の前に困った顔の(困った演技の?)ロキがいて
微妙に腕を上げた金髪がいて(弁解するタイミングを失ったみたいだった)
私の周りは、槍みたいなもので囲まれていた。
「・・・・・・・・・何が起こるか分からないね」
「本当だな・・・・」
「そいつは誰だ!ロキ!!!!!」
「・・・・・・・・・・・あの」
「!一緒について来たのか!?」
「兄上、そんなことを言っている場合じゃ、」
「喋るな囚人!!」
「あの、すいまs」
「立て!!」
「その女も一緒に連行しろ!」
訳のわからないところに連れて来られて訳のわからない人に連行されました。
ほんとうに申し訳ないけどあの金髪役に立たないね。
とりあえず変な場所に連れて来られて罪人といえど信用出来るのはロキだけなので
意地でもくっついておいた。何人かははがそうとしたけれど
それでも頑張ってたら同じ独房?に入れられた
「ここが牢獄?」
「だな。」
「何してるのいつも。」
「書物を読んでる」
「何書いてあるか分からない」
「高度な魔法書だからな」
「だったら余計読めないわ」
無造作に散らばった書物を適当に積み上げていくロキの後ろ姿を見ながら適当に床に座る。
「花束?」
「ああ・・・」
ちょっとだけしおれた花束が床に転がっていたのでなんとなく掴んでみた。
まだほのかに甘い香りがする。
「母上が持って来られたんだろうな。罪人の部屋に」
ロキは、嫌な笑い方をした。
そんな笑い方より、NYで話してくれてた時の笑い方の方が、好きだな
「しかし、どうやって帰ろうかな」
「兄上が父上に掛け合っている頃だろう。」
ロキは私の隣に座った。
なんとなく。会話が途切れたので花束を花冠に作り直す。
「せっかくもらったんだったら。花瓶用意すればいいのに」
「罪人の部屋に花を飾れと?」
簡単に編んだ花冠をロキの頭に乗せる。
「髪の毛、黒いからよく映えるね」
ロキはきょとんとして、それから小さく笑った。
私、そっちの顔の方が好き。
細くて長い指が、私の頭をぎこちなく撫でて、
「ロキ?」
そのまま頬に添えられた。
唇が近づいてきて、
「ろ、き?」
ああ。もう当たっちゃう、なんて
それが分からない子どもじゃない
でも私が想像していたことは起こらなかった
「・・眠ってしまえ」
囁かれた言葉を聞いた瞬間、私の意識は急に薄れ始めた。
瞼が重い。でも、駄目、きっと瞼を閉じてしまったら。
きっと彼とは会えなくなる。
でも、それでも、あらがえない強い力
「眠らしたのか」
「兄上・・・・」
「父上が道を用意した。はこのまま鉄の男の元へ返そう」
「その方がいい。」
ソーに抱きあげられた小さな少女を見つめたロキの心情など分からないが
ロキの頭から落ちた花冠を
「・・・・・・何が起こるか分からないのならば、再会もあり得るな」
ロキは優しくつかんだ。
積み上げられた本の上に置かれた花冠は冷たく、深く、凍っていた。