うちの大学はプロムがある。
最近は大学でもやってるところあるし、そんなに珍しいわけじゃないんだろうけど
やっぱりプロムが近づいてくると周りもそわそわし始めるわけで。
相手見つかった―とかあの人に声かけよーとか後輩先輩ひっくるめて最近の会話の中心はそればっかり。
私も何人かに声をかけられている。
さて、問題は私の彼氏さん(?)である。
一応、半同棲みたいなもんだし、学科違うけどお昼はちゃんと一緒に食べる(ように教育した)し
一応、一応そんな関係だ!だけど!一切!話が出ない。
プロムまで後5日となりました。



「おつかれーやっと終わったの?」
「教授のくだらない話に付き合ってた」
「偉いじゃん。シャーロックそういうのさっさと帰りそうだけど・・そんなことよりシャーロック今から暇?」
「実験が」
「暇かーそうかー」
「買い物なら買って帰る」
「うん、でもシャーロックと一緒に行きたいかな」
「なぜ」
「選んでもらうのに」
「何を」
「パーティ―ドレス」
「何故」

プロムまであと4日。
シャーロック・ホームズ、プロムの事はマインドパレスから消去されているそうです。

「・・・・・・・馬鹿みたいにフリルがついていない方がいいな」

分かった。とりあえず馬鹿みたいにフリルのついたドレスは選ばないでおくね。
という気持ちを込めてノートで頭叩いて帰りました。



「シャーロック、3月のさー」
「・・・・・・・」
「聞いてる?3月23日さ、何時からだっけ」
「・・・・・・・・・」
「シャーロック?何処見てるの?コーヒー淹れたけど?ねえ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

5秒前までソファからコーヒー入れろと言った男は
もうマイパレに引きこもったようで、宙を見て考え事をしているようです。
何が何でもプロムの話をしなければならないので
コーヒーに大量に砂糖とミルクを入れてマグカップを持たせると
体は不思議なもんでコーヒーを飲みこみこみました。
マイパレから帰ってくるまでコンマ2,3秒。

「っ!!!!!!!!」

いつもより何倍も甘いカフェオレとなったコーヒーを吐き出そうとするシャーロックの口を両手で押さえて
置けば、彼は意味がわからないといった顔で私を見上げました。
そもそも私と話してるのになんでマイパレ?

「それでねー3月23日よ、何時からだっけ、覚えてる?」
「!!!!?!!!!????」
「飲み込めばいいじゃない?そんなのどうだっていの。ねぇ、覚えてる?」
「!!!!!!!っ!!!・・・んっ・・・・ぐ、は?な・・・っ甘・・・なにがだ!!!」
「プ!ロ!ム!!」

実は私の部屋にもうドレスは用意してある。
水色の、薄いレースのやつ。
それなりになんとなく、シャーロックの目にも止まるように。
なのにこのソシオパスは全く反応しなかった。

「・・・・・・・・・・・・・ああ、そんな話もあったか。しらん。僕には関係ない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そう。」

キレました。もうキレました。
この男今すぐバットとかで殴らせてほしい。
私が不機嫌になったのを察知して何かしら言葉を探しているようだけど。もう怒ったから

「じゃあいいや、私あのドレスきて、すっごいおしゃれして、他の人と踊るから。
童貞のソシオパスは一人で実験でもなんでもしてればいいんじゃない?」
「なっ・・んでそうなるんだ!!!」
「いいのよ?すっごいイケメンと踊るから。それからいいコト誘われちゃうかもしれないけど
どうせプロムの事も私の事もなぁんにも考えてない男よりずっとマシよ」
!」
「もーいー寝る。」
「ちょっとまて!」

立ち上がった私をひきとめようと出された手のひらに流石の私でも飲めないような甘いコーヒーを
代わりに握らして私は一人部屋に入った。
鍵閉めてちょっと笑ってから、ちょっとだけ、ため息。
ドアの向こうではドアを叩きながら私の名前を呼ぶ声が聞こえるけど知りません。
私はもう寝るの!

プロム2日前 とうとう今日は喋らなかった。
朝起きていつもより早く大学に行って、シャーロックが帰ってくる前に寝た。
けど可哀想だから晩御飯だけ机の上に用意しておいた。
どうせ食べないんだろうけど。

プロム当日。
昼ごろ起きるとシャーロックはいなかった。
ソファにも寝た形跡はない。帰って来なかったのかもしれない。
だって別にここに帰ってくるって言う約束なんかない。
彼は実家があって、そう。帰るべき場所があるから。
リビングに行けば、昨日の夜用意した料理は全て片付けてあった。
お皿は洗って拭いて、でも戻す場所が分からなかったのか、キッチンに積んであった。
帰ってきたんだ。一度は。
じゃあ彼は何処にいるの?
なんだっていいか。ちょっとがっかりした。
ドレスに着替えて髪の毛をセットして、鞄とコートを羽織って。
今日は昼から集まって、夜がパーティ―だ。
本当は、他の誰とも踊る予定も、踊る気もない。
ちょっとだけ綺麗だってちやほやされて、ベストカップルみて、友達と喋って、帰ってこよう。

とっておきのパンプスに足を滑り込ませた。



友達と喋って、数人の男の子にちやほやされて、喋って馬鹿やってお酒飲んで大騒ぎして。
それでも大勢の中にあのソシオパスがいるんじゃないかと探してみたりして。
でもやっぱりいなくて、お酒が回ってきてふわふわしてきて。
ベストカップルが発表されるのを見届けて後は恋人同士が踊るスローテンポの音楽だけ。
このままよく働いていない頭と心のまま家に帰ってしまえと廊下に出る。
図書館の前を通り過ぎようとした時、うっすらと電気がついているのに気がついた。
スローテンポの曲を遠くに聞きながら気になって中へ入る。
入ったとたん電気が消えて、大きな窓から月明かりが差し込んできた。

「そのまま帰れば朝日が見られるか微妙なところだな」
「そんなに酔ってないもん。」

慣れない瞳で図書室の中を見つめれば月明かりに照らされたシャーロックが立っていた。
ネクタイしてるところなんか始めて見た。

「なんでパーティー会場来なかったの」
「遅れて行って、いろんな男が君に色目を使ってるのを見ろっていうのか。」
「来たらよかったじゃん。」
「きてるだろう、ここに」

普段はかないとっておきのパンプスがコツコツと絨毯の上を鈍い音を立てながら
黒ずくめの馬鹿男に近づいていく。

「ネクタイしてるのきもちわるい」
「馬鹿みたいにフリルがついてなくて良かった」
「もっとちゃんと言いなさいよソシオパス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・綺麗だ」
「・・・・・よくできました」

ちょっとだけ機嫌がよくなったから頬にキスしてあげた。
ぐい、と手首をつかまれたと思ったらそのまま腰に手が回った。

「ここで踊るの?」
「踊りたかったんだろう」
「シャーロック踊れるの?」
より上手い」
「ほんとに?」
「試してみろ」

スローテンポの曲が終わるまでにもうちょっとだけシャーロックが私の機嫌を直すことができたら
今度は唇にキスしてあげよう。