久しぶりに冷え込んだ朝。
熱いシャワーを浴びようとバスルームに入ると、なんとなくバスタブにお湯を貼りたくなって、
入浴剤を放りこんで、蛇口をひねる。
熱湯に設定しないとすぐ冷えちゃうなーと思いつつ、いつもより少しばかり設定を上げておく。
シャーロックは起きて来ない。ジョンは昨日、新しい彼女とデートに行ったっきり。
久しぶりの静かな朝だった。
と思ったのに

「・・・・・・シャーリー・・?」

お湯が溜まるまで紅茶でも。とキッチンに戻ると小さなドラゴンがふわふわと、不安定な動きで私の前を通過して

「シャーリー・・・?危な・・・っ!」

がしゃんっと音を立てて食器棚に当たって落ちた。
まぁ。ドラゴンだからきっと大丈夫だろうけどとりあえずシャーリーを抱き上げて見る。
ふるふると頭を振っている。まだ目は空いていない。
角の付け根のあたりを
(実際にこれが角なのか耳なのかなんなのか私にはよくわからないが、所謂、頭の上にある突起物だ)
人差し指で撫でてやると気持ち良さそうな顔をする。
ほんとに。このサイズだったら可愛いのに。
ベッドルームに戻ってシーツの中にそっと入れる。
別に事件もないんだから寝てればいい。
私はキッチンに戻って紅茶の準備
だけど誰かが後ろから、私の腰に手をまわしてきて、首筋に頭が押し付けられる

「・・・・・・眠いなら寝てればいいじゃない」
「・・・・う・・・ん・・・」

反応はすこぶる悪い。ただ、人間の言葉で会話できるだけまだましだ。

「それ・・・より・・・水音が・・・・・酷いが・・・なんだ・・・・?」
「水音?そんなの・・・・・・あっ!」

私はすり寄るシャーリーをどかしてバスルームへ駆け込んだ。
お湯が半分ぐらい。泡がそれ以上。
しまったやってしまった。急いでお湯を止める。
お湯が多いけど・・まぁちょっとした贅沢・・ってことで。



ぽやぽやとしているシャーリーの頬を撫でて見ると

「っ!つめたいっ!」
「・・・・・?」

死んだ人のように、そう、血が通ってないかのように冷たかった。

「ひゃっ!」
「ねむい・・・」

すり寄ってくる180の大男がずるずるとシーツにくるまってやってくる。
そう言った意味でなく、ただひたすら体温を求めて私のきているフリースの下へ
侵入してきた手もあまりにも冷たい。洗面所で何してるんだ。まったく。

「なんでこんな冷たいの!?」
「・・しらん・・・・」

煩いとばかりに抱きしめられるが、私はそれどころじゃない。
お風呂にだって入りたいし一人で静かな時間を過ごしたい。
シャーリーが起きてきた以上、後者は絶対に無理だろうけど。
でもせめてお風呂ぐらい・・・・・

「シャーロック、わたし今からお風呂入るから」
「・・・・」
「ほら、どいて。眠いんでしょ?ベッドで寝て頂戴」
「・・・・・・」
「シャーリー!」
「・・・・・・・・・・・・・・・さむい」
「そりゃそんな体温じゃ・・」
「ぼくをおいていくな。」

いい年した男が言うことじゃない。
シャーロックは離れない。会話だってままならない。
アレか、ドラゴン→トカゲ→爬虫類→変温動物ってこと?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・シャーロック、一緒にお風呂入る?」

これだけ眠い寒いといった男が、ちょっとだけピクリと反応したのを私は見逃さなかった。

++++

「ひゃーこうしてみると白いなー・・」
「・・・・」

泡だらけのお風呂に二人して浸かる。
半分ぐらいだったお湯は二人分の質量で肩のあたりまで増えた。
沫はいくらか流れてしまったがまぁ、体が隠れるくらいは残ってるしいいや。
シャーロックに背中を預けて彼の手と自分の手を見比べたりしてる。

は小さいな。」
「そうかな。平均的よ。」
「そうでもない。」
「それにしても、すごい匂いだな」
「分かんない。なんの入浴剤使ったのかな。薔薇がどうとか書いてた」
「人工的に作られた薔薇の香りは嫌いだ。勘に触る」
「よくわかんなーい」

朝日が窓から差し込んで、熱々のお風呂に二人で入る。
きゅう、と後ろから抱きしめられて、こそばゆいような嬉しいような。

「ついでにシャーロックの頭洗ってあげるね」
「いらん」
「乾かしてあげるからさ」
「・・・・」
「いつも乾かさないから寝癖がすごいことになるのよ」
「面倒だ」

ワインとか持ってくればよかった。
アロマキャンドルとか。
どうせならしっかりリラックスタイムにしたかったなぁ

の肌は白いな」
「んー?」
「跡がつけやすい」
「・・・・・」
< 「美味そうだ」
「・・・シャーロックって人間食べたり」
「しない」
「よ、よかった」
「だがなら」
「やめて!」

ばしゃん、とお湯がはねて、朝日のなかに泡がはねてく。
ずいぶんと機嫌が良くなったシャーロックが珍しくキスしてきたので
私はそれに答える。

「今日は休業にしましょ」
「・・・・・」
「ね、」
「そうだな。」

お風呂からあがったらパンケーキを焼こう。
ハドソンさんからもらったストロベリージャム、はちみつ、チョコレートソース
青いドラゴンに沢山食べさせて、それから二人で買い物に出かけて
映画でも借りてきてカウチで過ごす。
素敵な予定がどんどんとわいてくる。


「ん、」

でもしばらくは狭いバスタブの中で過ごすことになりそうだ。