朝起きて、これが一番心臓に来る。
「っ・・・!」

朝、目が覚めて、この瞬間が、一番、僕にとって心臓に悪い。
目を開ければブルネットの髪が僕の視界に広がった。
小さな赤い唇からは、規則正しい寝息が洩れて行く。
瞼にかかった前髪を分けてやると、小さな声が漏れたものの、
の意識はまだ遠いところにあるらしい。

狭い一人用のベッドに僕とが眠るのはずいぶんと無理がある。
・・・彼女と親密な関係を築き始めて3カ月ほどが経過しただろうか。
僕は家に帰らなくて済む理由を、それもマイクロフトが承諾するような理由を作る事ができ、
勝手にこの家の合鍵を作った。まぁ。彼女はずいぶんと怒ったが
それから、なんとなく、時間はとくに合わせないものの共同生活のようなものが出来上がっている。
僕も家に帰ることもあるし、彼女が先に帰って眠っていることだってある。僕らの共同生活は随分と不規則だ。だけど、

「ん・・・・・」

それでも、不愉快に思うことはずいぶんと少ない。
テリトリーを重要視する僕に、ずかずかと入り込んでいく

は不愉快に思うことが多々あるようだが、僕はそれを予想しきれないし
原因も、よくわからない。恐らく、彼女の性格もあるとは思う。

、」

声をかけても眉間に皺を寄せるだけで、起きる気はないらしい。
仕方ない。僕は彼女をまたいでベッドから降りてリビングへ向かった。
リビングの床に大量のレポート用紙と灰皿に溜まった煙草。。
恐らく、が起きたら怒るだろうが、まだ僕の頭の中では、答えが出ていないので現状を維持しようと思う。
それに脳の活動を持続させるためには煙草が必要不可欠だ。
勝手知ったる、と言ったようにケトルに火をかけて、マグカップを食器棚だす。
そろいのマグカップ。いつだったか彼女がいつの間にか買ってきていたもの。
朝食はどうするんだろうか。今日は日曜日、ずいぶんと早くに目が覚めてしまった。
時間を見て、ケトルの日を消し、紅茶をマグカップに注ぐ。インスタントコーヒーは昨日の夜で切れてしまった。
僕が、他人のために、自ら、揃いのマグカップに紅茶を注ぐ。
僕が自分の意志でやっているものの、なんとなく、不自然と言うか、慣れない感覚だ。
でも、悪い気はしない。両手がふさがっているので足でそっとドアを押すと、が物音で目を覚ましたらしい。
身じろいだ後、時計を確認して、また枕に頭を押し付けなおした。後ろ足でドアを閉めて、ナイトテーブルに紅茶を置く。

、」
「・・ん・・おはよ」
「紅茶を」
「・・・・淹れてくれたの?」

まだ眠いらしく、僕と会話をする気はないらしい。ただ、ゆらゆらと伸びてきた細い手が僕の頭を撫でた。

「・・・・さとうは?」
「入ってる」
「後でもらうー」
「そうか」

彼女がずるずると壁際に寄って行く。僕のためにスペースを開けてくれたらしい。

「僕は起きる、君はまだ眠っているといい」
「・・・・・シャーロック」
「僕は昨夜の続きを・・」
「シャロ、お願い」

ぽんぽんと開けられたスペースを示されて、僕はどうすればいいかわからならなかった。
必要性が見えない。
ただ、が僕を呼ぶと、僕は思考が時々止まることがある。

「・・・・・・・・・僕は目が覚めたんだ」
「私はまだ眠いから」
「だから眠っててもいい」

ゆるく、カーディガンの裾を握られて、僕は仕方なくベッドにもぐりこんだ。

数センチの距離で彼女と僕はベッドの中で会話する
誰にも聞かれないように、声を落として

「しゃーろっく、」
「なんだ」

ぱち、と目があった。彼女は、何かを言っている。

「・・・・」
「・・シャロ、」
「・・・・・・」

僕は言葉にされなかった意を読みとって、薄い唇にキスを落とした。
彼女がふわりと幸せそうに笑って、すり寄ってきた。

「シャロ、なんか、首赤い」
「そんなことはない」
「照れてる?」
「照れてない」

が顔をあげて僕の顔色を確認しようとしたから、僕はすりよった小さな体を抱きしめてそれを阻止した。