が突然、イギリスを出ると言いだした。
確かに、大学時代の恋人とは別れる可能性が十分にあり、
その原因のほとんどが就職によるものだ。
しかし。本当に突然だった。
今まで就職の話など、したことが無かったし
ずっとイギリスにいるものだと、そう、心理関係の仕事につくものだと思っていた。
だから、僕は、その話を聞いたとき、ひたすらに、孤独を感じた。
「・・・・シャーロック」
何かが消えて行くのは、今に始まったことじゃない。
心に出来た虚無感はいつだって抱えて生きてきた
ただ。彼女に出会ってから、いつしかその空虚な気持が埋まって
それが普通になっていた。
今までの生活に戻るだけだ。
僕は、一人で、生きて行ける
「・・・・・・シャーロック」
は言いにくそうに目線を揺らしながら、唇をかみしめていた。
その唇が開き、紡がれる言葉のほとんどが想像できるものだ。
「分かっている」「出て行け」「もう会わない」言えば、済むことだ。
これまでもそうしてきたし、これからも、そうするはずだ。
なのに、僕はその言葉を言えずに、ただ、茫然と立ち尽くす
「すごく、勝手な、お願いがあるの」
「あのね、就職先、言えないんだけどね」
「アメリカに、行くことになっててね」
「シャーロック」
「私、わたし、しゃー、ろっくに、いいたかった、んだけど、いえなくて」
「いえないりゆうも、いえなくて」
「わたし、しゃーろっくとはなれたくなくて」
「それで、それで」
ぼろぼろと涙を流して、
声を詰まらせながら、リビングに立ちつくす
このフラットは彼女の家だが、ずいぶんと僕の私物が増えた。
「君が、いなくなる前に、荷物を持って帰る」
「しゃぁろっくっ」
子供みたいに、涙を流す
「しゃぁろっく、だいす、きっ」
いいわけみたいに、愛を呟く
「・・・・・・・・」
「・・・ひっ・・んくっ・・」
「、泣くな、僕は、君を泣きやます方法を知らない。」
「しゃろ、」
「だから泣かないでくれ」
頬を伝う涙をいくら救っても、次から次へと床へ落ちて行く。
「、僕はどうすればいい」
「君に行くなと行っても、どうしようもないだろう」
「、教えてくれ」
「僕は、こういった状況に慣れていない」
「まってて、くれ、る?」
涙が止まって、瞳がこちらを見据えた。
丸い瞳に僕がうつる
「待ってる。待っていてもいいが、君は帰ってくるんだろうな」
「かえってくる。」
「確証がない」
「だから、酷いお願い。勝手なお願い、まってて」
涙を流す彼女は、
僕に祈るように囁く彼女は
恐らく、世界で一番、美しかった。