「あっ」

何が「あっ」だ。この野郎。
シャーロックは私の顔を見ると手元にあった本を片付け始めた。
場所は図書室。時間はお昼の2時を過ぎたとこ
日にちは、そう。彼のハジメテもらった日から2日後の事。
私はつかつか近づいて行って目の前に座る。

「・・・・・・」
「・・・・お昼。」
「・・・・がどうした」
「一緒に食べようってメールしたのに」
「・・・・・・み、てない」
「携帯出せ!」
「なんでだ!!!」

シャーロックは本の上に置いてあったスマートフォンを慌てて片付けようとしたけれど
私の方が早かった。
受信メールの欄を見れば、私のメールは開封してあった

「シャーロック」
「・・・・・・・食べたのか。」
「友達と食べたよ!待ってたのに!!」
「・・・・わる、かった」
「一応、つきあってるんだよ?」
「わか・・ってる」
「わかってるって・・・・・」

勢い余ってガタン!と立ち上がるとちらり、と司書がこちらを見た。
シャーロックは子供のように目線をそらしている。
「・・もー・・いいよ!」
「・・・お静かに。」
!」

司書の声が間に挟まったけど、私は無視して図書室を出た。
これだから童貞は!
あそこまで大胆な行動に出たって言うのに、彼は大学で会うと別人みたいで。
普段はいつも通りなのに、私と二人っきりになるとものすごく、ぎくしゃくする。
きっと付き合う前より酷くなった。
別に取って食おうなんて思ってない。思ってないが、この態度は気にいらない!
いっその事取って食ってやろうか!!!

++++

それからも数日、シャーロックと私の関係はぎくしゃくしっぱなしだった。
別に逃げたりはしなくなったけど、それでも一緒の部屋にいても、何処となく緊張感が漂う。
今日も私は彼のために、研究室へ通う。
なんて涙ぐましい態度なんだろう。心理学科の棟から理系棟まで歩いてきて。
全く全く。一回ぐらい、私の授業が終わるのを教室の外で待ってて欲しい。
少し背伸びして研究室の中を覗いてみると、シャーロックは一人、こちらに背を向けて
何かしら本を探しているらしい。
そっとドアノブを回す。

「・・・・・っ・・

つかつかと近づいていくと、シャーロックが手に持っていた本を私によこした。
私はその本を受け取って、机の上に置いて

「んっ・・・・!」

184の男の唇を私が奪うにはずいぶん努力しなきゃならない。
ヒール履いてたってちょっと背伸びしなきゃならない。
ちゅ、と軽くキスして、離れて、青い瞳が見開いてる。
あんまり見られると恥ずかしい。
私だって恥ずかしいのを我慢してちょっとでも慣れてもらおうと努力してるのよ!
そっと手のひらで瞳を隠してもう一度、唇を寄せる。
ぎこちない腕が腰に回った。

「ふっ・・・ん、シャロ、」
「・・・ん。」

ちゅ、とリップ音が鳴って離れる。
鼻が当たりそうなくらい近くで、小声で喋る。

「まだ、怖い?」
「こわくなんかない」
「嘘つき。だっていっつも緊張してる。」
「してない」
「ほんとに、今まで女の子と付き合って来なかったんだね」
「うるさい」
「今日、うち、来れる?」
「・・・・・・」
「シャーロック?」
「行く」

と言って、今度はがぶりと噛みつかれた。
自分だってキス出来るんだ!って言ってるみたいで笑いそうになった。
最初のときより、上手にはなったんだけどなぁ・・
ふわふわとした癖毛を撫でて、覆いかぶさってくる男にしがみつく。
倒れそうになるのを彼の腕が支えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・今夜が楽しみだ」
「っ!」

耳元でささやかれて、思っても見なかった態度と言葉で声が詰まった。
顔がだんだん熱くなるのを感じる。
まるで今までのが演技だったみたいに。

「・・・しゃ、ろっく!」
< 「なんだ?」
「ど、童貞のくせに!」
「違う!!」

ゆる、と腕が離れて、彼は踝を返すと
ガタガタと机の上を片付け始めた。いつもよりずっと早い撤収だ。

「・・・・もう研究いいの?」
「君が誘ったんだ。」
「・・そ、ういう意味じゃない!」
「違うのか?」
「・・・・・・・違わないけど・・」
「買い物に行くだろう?」
「・・・・あ。そうだね、晩御飯!」

こんな会話で喜んでしまう辺り、私もずいぶんとやられている。
私の顔を見たシャーロックの頬が少し緩んで、心臓が高鳴った。
ああ、嫌だ!この男!