「!仕事だ!一緒に来てくれ!」
『ごめん、今日は帰れないの・・ジョンと行ってきてくれる?』
「!!なんでこんなに遅い!早く帰ってこい!」
『あー・・あのね。仕事が立て込んでて、こっちで泊ることになりそうなの・・・』
電話で断り続けて3日目。
とうとう、やっと221bの玄関にたどり着いたものの、
これからどうやってシャーロックを説得するか、というより
仕事なのだから仕方ないんだけど、機嫌が悪くなるのが目に見えてるので
ちょっと気が重いまま、私は部屋のドアを開けた。
「やっと帰ってきたか!お帰り」
一人掛けのソファに腰掛けてきらきらした瞳でこちらを見るシャーロック。
金色が綺麗に反射する。
ああ、いたたまれない・・・・・
「・・・・いや・・あの・・・ごめん、明日から、ロシア出張で」
「・・・・・仕事か!諜報活動か!」
「・・国家機密なので喋れません」
「それが答えみたいなもんだ!!」
と、言ったきり、シャーリーは分かりやすくすねた。
両足をソファに挙げて、体を折りたたんで、胸の前で手のひらを合わせる。
マインドパレスへ行くときの格好。
「・・・・あの、シャーリー?ごめんね、帰ってきたら、しばらく休暇取るから・・・」
「別に僕は何も言ってない。早く用意しろ。飛行機の時間ギリギリだろう」
「なんでわかるの?」
「外で、車がエンジンも切らずに止まってる。君を待ってるんだ。階段を駆け上がる足音は早かった。
急いでいる。そしてこうして僕が喋ってる間も、鞄の中を整理している。」
「ご、ごめん。」
「別にいい、早く行け」
「・・・・・行ってきます」
一人掛けのソファから立ち上がらず、不機嫌そうに一点を見つめるシャーロックのこめかみにキスして、
二週間を予定している海外出張に私は出掛けた。
心境的には・・・そう、出来たての彼女を置いて、出張に出る男の気持ち。
・・・・・・知りたくなかったわ・・・。
+++
「あー!!!ただいまー!」
と、イギリスに帰って自分のオフィスで叫ぶ。
冷たい部下たちが「今回は体に穴開けずに帰って来れましたね」といいながら通り過ぎて行った。
以前なら、多少、強硬手段に出ていたところを、今回は我慢した。
殴るだけで、とりあえず我慢した・・・・嘘。ちょっと蹴った。
まぁ相手の人は肋骨何本かイっちゃっただけど、喋れるしいいか。
なんせ、今日から休暇を取る。そしてシャーリーの機嫌を頑張って何とかする。
「・・・・Sirマイクロフトがオフィスに来るように言ってますよ」
「報告書かな。じゃ!私そのまま帰るね!」
「はい。はい。せいぜい休暇楽しんでください」
「私が休暇中はテロとか起こさないようにしてね!」
「イギリス国民のためにがんばりまーす」
優秀なのに、何かこう・・・冷たい奴らばっかりだ。
私は束になった書類をばさばささせながらSirの部屋を目指す。
こんこん、とドアをノックすると入りなさい、と静かなトーン
「報告書、お届けに来ました」
「・・ああ。ありがとう。そこに置いておいてくれ」
そこに、というのは書類箱。彼が今日中に何とかしなきゃならない書類の束が厚く積んである。
私は一番上に書類をばさりと置いた。
鞄を手にとって、部屋を退室しようとしたら
「ちょっと待ちなさい」
と、背後から声をかけられた。
出来たら急いで帰りたい。221bがシャーリーのストレスで火事になる前に
もしかしたらもう遅いかもしれないけど、とりあえずニュースにはなってないところを見ると
何とか全焼までは行ってないようだ。
でも、今日帰るって言ってるから、遅くなったら全焼も、冗談じゃなくなる
「ど、どうされましたか?」
「そんなに心配そうな顔をしなくていい。シャーリーの事だろう?
君が危惧していることは残念ながら、もう起こった後だ」
「ええ!?」
というか、私何も言ってないのに、なんで分かるんだこの人!!
Sirは机の引き出しから、ホテルのキーを取りだした。
「火事にはなっていないよ、全焼もしていない、ただ部屋中の壁紙がそれなりに焦げてしまってね」
「・・・・・・・」
「弟も、子供のようだね。仕事だから仕方ないと言ったんだが。申し訳ない」
「・・・は、はぁ。」
「で、洋服などはある程度ここへ運んである。内装を工事する間ここへ泊りなさい。
どうせ休暇だ、ゆっくりしていいだろう」
「シャーロックは?」
「今は、私の家にいるが・・・そのうち君の所へ行くかもしれないな。
まぁ今夜は阻止するよ。君だって疲れているだろうからね」
「・・い、いいんですか?というか・・ジョンは?」
「彼にも一応、部屋を用意したんだかが、余計なお世話だったようでね。ブロンドの女性のところへ。」
にこにこと笑顔で言いながら、Sirはキーを私に差し出す。
番号から見てスイート。
「弟がしでかした事なのでね、何も気にしなくていい。好きに使ってくれて構わないよ。
どうせ、私が押さえてる部屋の内の一つだから」
ああ。英国政府らしいお言葉だなぁと深く考えない頭で聞き流して
ありがたくキーを受け取ることにした。
広い浴室、ふかふかのベッドで一人寝る!
身体中、限界だし、ちゃんとした環境で眠るのは2週間と3日ぶりだ
「申し訳ないが、今にも暴れそうなシャーロックを早々長く引きとめておけないからね。
一人で使えるのは今晩だけになりそうだが」
「いいですよ!ありがとうございます!」
「じゃあ、早速行きなさい。外に車を用意してある。よい休暇を、」
「ありがとうございますSir」
と、その時、私は純粋に彼に感謝した。
彼の言葉を信じて、ホテルまで向かったのだ。
勿論、嘘なんかほとんどなかった。部屋はスイート、最上階の最高ランクの部屋。
ただ、ほとんど。
ドアを開けてもらって中に入って、内装を見る前にでかい男に抱きあげられて
天井がひっくりかえった
「っ!?しゃ、シャーリー!?」
「お帰り」
流暢にしゃべりながらベッドへ投げ捨てられる。
ぼすん、と音がしたが軋むような音はしなかったし、体に負担もない。
肌触り最高。目の前にドラゴンの混血がいなければ
「・・・じ、実家に帰ったんじゃ・・・」
「・・・・・何を言ってるんだ?僕は工事が始まってからずっとここにいる」
騙されたああああああああああ!!!!
頭を抱えて丸くなっていると電話がかかってきた。
シャーリーは私のパンプスを脱がして自分の靴も脱いでいる
「電話が鳴ってるぞ」
「・・・はい・・です・・」
『言い忘れていた。シャーロックは今朝、実家を出て行ったんだったよ。すまないね』
「・・・・・Sirの嘘つき・・・工事が始まってから、ずっとここにいるって言ってますけど」
『・・・・・・・しょっちゅう家出する弟が実家に長くいる訳ないだろう?』
「わぁあああああ!」
『これは、君への休暇のプレゼントでもあり、シャーリーが君がいない間、片付けてきた事件の報酬でもある。』
「・・・はい・・・?」
「もう話すことはない。切るぞ」
細かい話を聞く前に、シャーロックに携帯を取られて電話を切られてしまった。
ついでに、電源ボタンを長押しして、ソファの上へ放り投げた
「ちょ、ちょっと!!」
「・・・さて、僕は君がいない二週間の間に、4つも事件を解決した」
「う、うん・・偉かったね」
「で、報酬がこれだ。休暇は一週間。僕は一週間、を好きにできる」
「そんなの聞いてない!!!」
「別に許可はいらない」
キスしようと近づいて来たシャーロックの頭をがし、とつかむ。
「でも、壁、焦がしたんでしょう?」
「・・・・・君が僕を放っておくから」
「好きで放っておいたんじゃないわ」
「・・・・・」
「買い物ぐらい、付き合ってよね」
「・・・・もういいか?」
「返事は」
「・・分かった。でも、しばらく外を出歩く気分にはならないと思うが・・・」
それは、どういうことなのか。
とりあえず悪い笑顔を浮かべて押し倒すシャーロックに聞けるような雰囲気でなく
「・・そのシャツ、気に入ってるんだろう?破られたくなかったら、大人しくした方がいい」
「悪い人の台詞だわ・・・」
「僕は人じゃない。ドラゴンだ」
私が一週間の休暇の最初の2日間、ほとんどベッドから降りれなくなり
疲れた体をさらに酷使することになったのは
言うまでもないことだろう。