ここ最近のシャーリーの様子がおかしい。
何がおかしいって、今この状況も現在進行形でおかしい
しばらく任務でイギリスから離れたところにいたから長期休暇をもらった。と言っても三日ほどだけど。
朝起きて、誰も起きてなくて眠いなーってカウチに転がったらうとうとし始めて、
起きたらこれだ。私の鎖骨ぐらいの位置に酷い癖っ毛の頭がのっかっている。
シャーリー(人間ver)は身長が高いから明らかに足がカウチからはみ出てる
そしてものすごく重い。私は抱き枕じゃないんだぞ

「シャーリー・・・」
「・・・・・・なんだ」
「重い」
「知らん」
「シャーロック、ちょっと」
「頭」
「頭?」

もごもごと喋る声が聞こえる。
多少、胸に温かい息がかかるが、そんな色気のある感じじゃない上に
そこにクッションになるぐらいの肉が付いていればいいものの
仕事柄(しかもハニートラップを仕掛ける側じゃない、第一線だ)筋肉をつけたので
残念なことになっている。まことに残念だ

「頭!」
「だからなによ・・ちょっと、重い!」
「撫でろ!」
「・・・・・・・・。」

良くわからないがちょっと怒っているので体の下から腕を引きずりだして
ふわり、と黒い癖毛を撫でてみる。
わしわし
お気に召したのか背中に腕が入り込んで上下が逆転した。

「シャーロックは今日から犬になるの?」
「僕はドラゴンだ」
「いや、分かってるけど。なんで撫でてほしいの」
「考えがまとまる!」

どうやら言葉のキャッチボールが上手くいかないようだ。
何にせよ、ニコニコしているのでいいとしよう。
眠い眠い。ちょっと過激な任務だったためか、長身の男が抱き枕にしてるせいか温かくて眠りそう。
だったのを、けたたましい着信音が私を現実へ引きずり戻した。

「・・・・・事件か!!!」

シャーロックはすばやく携帯を取り電話に出た。
瞬く間にシャーロックの口角が上がっていく。
今日はバラバラ死体が出たのか。首だけ持ち去られたのか。
こないだなんて死体が朽ちて行くと花に変化していく呪いがかかった奴が出てきたらしい。
幻想的な呪いをかける奴もいたもんだ。

「行くぞ!!!!」
「なんで!」
「今日はジョンは仕事だ!!!!呼び出したら着信拒否になってた!!!!」
「・・・・・・・・・・・」

あの野郎、私が休みなのをいいことに・・・・!!!
早く早くとせかすシャーロックをなだめて着替えてメイクをして。
30分で用意した。多少は褒めてほしいと思う。
まぁ階段を下りて、玄関を開けると既にシャーロックはタクシーに乗り込んでいたけれど。

+++

現場に着くと、警察の人が沢山いた。
Keep outの文字が踊っている。

「警部、ソシオパスが来ましたよ」

シャーロックを見上げて本人を目の前に言ってのけるのはドノヴァン。
ずいぶんと嫌われているらしい。
警察機関で彼の正体を知っているのはレストレードだけと聞いている。
レストレードは消して口外しないことを強いられてるみたいで
こないだ聞いたら『職を失いたくないから』と遠い目で言っていた
シャーロックはお構いなしに現場へ入って行った。
その後ろ姿を見ながらため息。
ドノヴァンが無線機でこう付けくわえた。

「それからその飼い主も。」
「はいはい。しょうがないでしょ、今日ジョン仕事なんだもの」
「アンタもよく付き合ってやれるわね。」
「ほんとよね。仕事上がりでせっかくの休日に死体見に来てるんだもの。やってられない」
「さっさと出て行ったら?」
「そうもいかないのよ。それに可愛いところも多少あるんだから」
「可愛い!?ソシオパスが?」

失笑を背中に受けながら現場へ入っていく。
オートロックの鍵、荒らした痕跡のない部屋。
広いリビング。どんどん通り過ぎて寝室へ。
そこには見なれた背中が挙動不審に動いている。

「やぁ
「おはよう、グレッグ。」
「朝から死体を見ることになるとはなぁ」
「お仕事お疲れ様です」

シャーロックは窓や床や死体やベッドやとくるくる回りながら部屋中を闊歩する。
そばにいた鑑識に出て行っていいとグレッグが言って
部屋には私たち3人だけになった。
人がいないことを確認して、小声で聞く

「で、シャーロック、これは人間の仕業か?」
「違う!」
「じゃあなんだよ・・・」
「死体は苦しんでない。毒物を盛られた訳じゃなさそうだ。部屋もあらされてなかった。
鎮静剤か睡眠薬という可能性もあるが違う。死ぬまで飲み続けさせるなんて無理だ。
自殺じゃない。他殺。問題は何が実行したかだ。」
「で?」
「・・・・・・!」
「はい!」

ぼーっとしていたのでシャーロックが叫んではっとした
シャーロックがつかつか歩いてきてお辞儀をする。
な、なに?」

「頭!」
「・・・・・・え、あ。こう?」

184cmもある男が目の前で腰を折ったら何事かと思った。
ちなみにレストレードは口を開いたまま、固まっている。
ふわふわと頭を撫で続ける。彼はうつむいたまま両手を目の前で合わせて脳内検索中だ。
ドノヴァンがドアの向こうですごい顔してるのが視界の端に映った。

「分かった!!!!」

がば!と体を起してまた吃驚する。
仕事休みなんだから心臓を休めたいんですが。

「何の仕業だ。」
「ルゲイエだ!」
「なんだそりゃ。」
「もとは眠らない子供を寝かす魔物だ。多分、いたずら半分で殺されたんだろう。
もしくはこいつが悪い子だったからか。もう夢は見られないな」
「どいういことだよ・・」
「ルゲイエはいい子には物語を聞かせて悪い子には朝まで夢を見せないようにする。
こいつはどっちにしてももう夢は見られない」

ふふん、と馬鹿にしたように笑いカツカツと出て行くシャーロック。
ドノヴァンが入ってきて、レストレードが声をかけた

「自殺だそうだ。片付けろ」

当たり前だ、調書に『妖精がやってきて殺しました』なんて書けるわけがない。
シャーロックの仕事は主にこんな感じ。不自然な死に方をした人を見て、それがファンタジー要素なもので死んだのか
はたまた人間が殺したのかを見分ける。どっちにしても解決するのは彼だが
ファンタジー要素の方は自殺とか事故で片付けられる。これが彼らが長く人の世界に紛れこんで生きる理由だ。

「ねぇ!ちょっと!さっきのあれなに?」
「よくわかんない」

ドノヴァンがおかしそうな顔で聞いて来た。

「付き合ってるの?」
「・・・・・多分?」
「やめといたほうがいいって!」
「どうなんだろうね。」
「だってあんなのと付き合ってて・・・」
「婚約したんだ!」

シャーロックが現場から出るギリギリで叫んだ。
ちょっと待て。婚約してないぞ。書類なんか書いてないし。
現場が一気にシンとした。

「それは私も初耳だわ。」
「・・・・・・・・・」
「でも不倫関係にいるよりかマシよね。」
「・・・っ・・なんであんた・・」
「スパイなめないでよね?勘違いだった?」

人の恋路(?)を邪魔するものは馬に蹴られて死ぬらしい。
東の方の国のことわざ?よく分からないけどこう言うって。
黙って下唇をかみしめるドノヴァンの横を通り過ぎてシャーロックに近づき
とりあえず軽く殴っておいた。

「なんでだ!!」
「婚約したなんて初耳だけど。」
「こないだキス」
「黙れソシオパス!」

がんがんと押して現場を後にする。
後ろではざわざわ何か言ってるけど、バックには英国政府がついているので大きくはならないだろう。
私は青いドラゴンをつれて221bへ。
躾はしっかりと言うので、その日シャーロックがどんなにソワソワしていても放っておいた。
休日の3日間、彼がべったりくっついて離れなかったのは言うまでもないだろう。